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書評:誰がアパレルを殺すのか ファッション業界の人でなくとも刺激的な一冊

オーダーサロン ボットーネがお届けするビジネススーツ&フォーマル通信。
今日はアパレル業界の裏を暴き、過去と今、そして未来を描くこの一冊をご紹介したい。

 

私もオーダースーツの会社をやっていて、大きい枠でみるとアパレル業界にいることになります。この業界に入って10年以上が経ちましたが、随分と様変わりしました。

例えば、お客様がインスタで画像を見つけ、そこから作りたいスーツのゴールを話し合うことも10年前にはなかった光景です。

周りをみても、百貨店は売れ行きが悪いとか、メルカリが人気だとか、アパレル業界の現状はどうで、これからどうなっていくのか?とても興味深い一冊をご紹介したいと思います。

この記事の目次

うちの会社に、新たなアルバイトの仲間を迎える歓迎会を行ったときに、24歳の彼はいろいろ話してくれた。
聞いていて、随分変わったのだな、と思った一つが漫画だった。

39歳の私は、小学校の帰り道にコロコロコミックを買って読みながら帰っていた。
中学になるとジャンプになった、買って読むのが毎週の楽しみだったのだ。
でも今はネットで読むのがスタンダードだろう。

ところが、発売になるより前に、読者が予想する次回の展開漫画で溢れ、そちらの方が楽しいのだそうだ。

漫画一つとっても時代は移り変わっているけれど、アパレルにIT企業が参入し、時代はめまぐるしく変わっている。誰がアパレルを殺すのか?

アパレルで何が起こっているのだろう?

 

 モバイルの普及で漫画ですら楽しみ方が変わっている。アパレルは?

第1章 崩れ去る”内輪の論理”

第1章は、バブル期にとにかく売れた服が、どんどん売れなくなっていく様子が描かれている。

 
アパレル業界の国内の市場規模は、1991年に15.3兆円だった。
ところが、現在は10兆円を切っているという。

海外の方が日本で購入する爆買いも込みで10兆円を切っているの。
つまり、どれだけ落ち込んだのかわかる。

どうして落ち込んだのだろう?
バブル期、景気は右肩上がりの時代。
私は経験していないが、赤坂から六本木に行くだけでタクシーに1万円を払わなければ乗せてもらえなかった、と聞いたことがある。お札をヒラヒラさせてタクシーを捕まえるのだ。

アパレル業界が手を染めた大量生産、大量出品というビジネスモデルは、業界のあらゆるプレーヤーを不振に追い込んだ。
誰がアパレルを殺すのか 杉原淳一/染原睦美 日経BP社 より引用
 

アパレル業界は集団自殺をしている、とある。
まさにそうだと思う、どこに行っても同じような服しかない。
郊外のアウトレットに行くと特に思う。
ここにしかない、というような既製服に出会うことはあるだろうか?

 バブル期、服は売れに売れた

第2章 捨て去れぬ栄光、迫る崩壊

第2章では、どうして売れなくなったのか?に迫っている。
さらに、この本でも描かれているが、服をたくさん作る>>百貨店にどんどん置く>>売れ残ったら引き取る という、今も続いている業界の仕組みまで説明されている。

バブル期、イッセイミヤケやコムデギャルソンという、日本人デザイナーがパリコレで活躍するようになる。
原宿はマンションメーカーで溢れていた。マンションメーカーとはマンションの1室に、デザイナー中心の少人数の会社があって、洋服を生み出していくのだ。

VANジャケットはご存知だろうか?
一斉を風靡したといわれるVANジャケット、作れば完売、高価な服は飛ぶように売れた。

バブルが弾けて、服は安く作る方向になった。
中国や東南アジアへ生産拠点をシフトしたのだ。
フリースでおなじみ、ユニクロがブームになって、ファストファッションが当たり前になっていく。

コストばかり意識して、面白い服を作ろうという企業が少なくなってしまったのだ。

ファーストリテイリング会長兼社長
柳生正(やないただし)氏

もう、”散弾銃商法”は通用しない

アパレル不振の原因を「ムダに商品を作りすぎた」と看破する。米グーグルや米アマゾン・ドット・コムを将来のライバルと見るのは「服は情報」と定義するからだ。

柳生正氏へのインタビュー
誰がアパレルを殺すのか 杉原淳一/染原睦美 日経BP社 より引用

作り手や売り手より、消費者の方が数十段進んでしまった、と語られる柳生氏。
ブランドだから売れる、という時代ではないのは間違いないと思う。

私も10年以上オーダーメイドの仕事をしているが、10年前はグッチのようなのがオーダーで欲しい。というように、名指しでブランド名が出てくることが多かった。

最近は、特に若い層の方からあのブランドのようなのが・・・と言われることがあまりない。
そもそも仕立服は、王様の要望を汲んで仕立てるものだった。
ヴィトンも、王朝に納品していたことが買われて、広がっていったわけだ。

つまりブランド=信用なのだ。

だけど、いつしかそのブランド自身が服を定義して、顧客のために作るのではなくて、このブランドが提案する服はこれだからみなさん着てください!に変わっていったのだ。
それがまた元に戻りつつあるのではないだろうか。
 

 ファストファッションが当たり前になった

第3章 消費者はもう騙されない

 

第3章は、Uber(ウーバー)やAribnb(エアビーアンドビー)という、新しい企業が登場している時流に触れて、アパレルでも同じようなことが起きていることが説明されている。

ウーバーはタクシーをスマートフォンで呼んで決済までできるサービスで、イギリスではストライキまで起きた。エアビーは自分の家を1泊から誰かに貸せるサービスで、世界的にヒットしている。

アパレル業界も、IT化の流れがある。
エバーレーンがそうだ。
ネットで見たスプリングコートを試着したいな。とお客が試着室に入る。
でも店内に在庫なし。
購入したら、ニューヨーク市内から2時間くらいで自宅に届くのだ。それで安いのだから、この店からブランドの袋を持って帰る人はいない。

エムエムラフルールやグレイツも注目すべきサービスだ。
過剰なコストを抑えて、安く提供するのは、ファッションショーをしない、セールもしない、という新しいスタイルの企業が誕生している。

年間760億円のZOZOTOWN(ゾゾタウン)、WEAR(ウエア)からも目が話せない。

そんななか、大量生産ではなく、カスタマイズの流れになっている、と語られている。
ハンドメイドの市場も広がっていて、自分が作ったアクセサリーをサイトで登録して、消費者が買うアプリも人気だ。

 お店ではなく、ネットで購入する流れは世界的に巻き起こっている

本書の後半に登場するのだが、私はメルカリの存在は非常に大きいと思う。
 メルカリは個人がスマートフォンなどで販売したい物の写真を撮り、価格をつけて売る、というシンプルな仕組み。
このサービスが生まれる前はヤフーオークションがメインだったけれど、メルカリにはオークションはない。
逆に、《値引き》を交渉できて、買いたい値段と売りたい値段がお互い成立したら取引が成立する。
 
このサービスの衣料の売買はとても多い。
レディースが多いけれど、メンズも少なくない。
一番驚いたのが、オーダースーツも販売していることだった。
体型に合わせてオーダーしたはずなのに、それを売るとは、買い手がいるのだろうか?と興味深かったのだけど、追ってみていたら1週間後には購入されていた。
 
自動車の新車を買う際に、3年で中古で売ったとすると・・・
と計算することがあるけれど、洋服もその感覚になっているのではないだろうか。
 
新しい服を1万円で買って、5000円で売れば5000円で着たことになる。
5000円で着たユーザーは2500円で着れば、2500円で着たことになる。
 
こうして、1着の1万円の洋服を、例えば3人でシェアしているのが今の洋服を買うときの考え方だ、とメルカリ・小泉社長のコラムを読んだが、シェアリングエコノミーなのだ。
 
現にうちの妻も、ストッケというベビーカーをメルカリで売って、その資金で小ぶりなベビーカー、マクレーンを購入した。
そのストッケを買った人は、また誰かに売るのだから、店舗が売れないわけである。
 
 洋服にも、シェアリングエコノミーの流れ

第4章 僕らは未来を諦めない

第4章では、これらの時流をもとに、暗い未来ではなく、アパレル業界の企業や人々が見出す新しい道について触れられている。

旧式の力織機にこだわって、1本2万円を超える桃太郎ジーンズの勇気付けられる話も目が話せない。

 
ところで本書の中でも登場する、ストライプのめちゃカリ。
洋服が月5800円で借り放題というサービスで、このサービスを運営している澤田さんとは、当時澤田さんが手がけられていたパーソナルスタイリングのお仕事でご一緒したことがある。
このサービスでは1カ月、色々な服を借りられる。
自分では選ばないであろう服が意外と似合うケースもあるだろうし、2カ月借りると自分のものとなる。
返却された服はゾゾタウンなどで販売されるというから、一点の無駄もないシェアサービスだ。
 
今では、ネクタイのレンタルサービスも誕生している。
このようにアパレルもシェアリングエコノミーの流れから大きく変わってきている。
 
 洋服のレンタルサービスがヒット

まとめ

服が、随分と面白くなくなった。
こう話すのは、アパレル業界で素材博士と称される大西基之先生だ。
私たちは素材を学ぶ講義を開催していて、大西基之先生に講師をお願いしているのだが、度々登場する言葉がそれだ。

特に、10年以上前から好きで買っていた服のブランドがあったとして、ファンであるからこそ質が落ちた場合に気づく。お店に並んでいる商品を見ても、以前は個性があったけど、今は同じようなのが並んでいる、という意見も聞く。

ヒットしそうな商品を作って、金太郎飴のようにコピーして郊外のショッピングモールで売られていても、これは素敵だ!と心踊るだろうか?
悲しいが、それならWEARで他人がしているコーディネートを参考にして、ZOZOで購入すれば良いし、ある程度着たらメルカリで売れば良いと考えるようになるのは当然ではないだろうか。

誰がアパレルを殺すのか。
業界の中にいる人にはぜひ読んでみて欲しい一冊である。

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松 甫ライター:松 甫 詳しいプロフィールはこちら>> Twitter Facebook 表参道の看板のないオーダーサロン 株式会社ボットーネ CEO。
自身もヘッド・スーツコンシェルジュとしてフィッティングやコーディネートを実施。
クライアントは上場企業経営者、政治家、プロスポーツ選手の方をはじめ、述べ2,000人以上。

2018年1月9日
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