スーツの背抜き 総裏の選び方 背抜きはいつから?いつまで?
オーダーサロン ボットーネがお届けするビジネススーツ&フォーマル通信。
先日、オーダーいただいたクライアントから、ジャケットを背抜きにすべきかどうか?という質問があった。
ジャケットとスーツ、色々と違うわけだが、おおむね夏のスーツというとに背中の部分に裏地がない、背抜きスーツが当たり前なのでは?というイメージの方も少なくないのではないだろうか。
夏に向けてどのようなジャケットの背仕様が望ましく、背抜き・総裏はそれぞれどのような基準で選べば良いのだろう。
また背抜きスーツはいつから着るもので、いつまで着るものなのだろうか?
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こちらの記事には動画バージョンもあります。
スーツのジャケットには、背抜き(せぬき)や総裏(そううら)という仕様があります。
背抜きは、ちょうど背中に当たる部分だけ裏地がない仕様です。
なんだか涼しそうですね?一体どうやって選べばよいのでしょう?
また、いつから背抜きのスーツを着て、いつから総裏のスーツを着るべきなのでしょう?
今日は、背抜きの選び方の本当のところを解説します。
こちらが背抜き仕様のスーツ。
着た時に背中に触れる部分が、裏地がない仕様になっている。
背抜きに良く似た仕様に、アンコン仕様というものもある。
全体的に裏地がない。
その分表生地をたくさん使うので、贅沢な仕立て方だといわれる。
それではまず考えてみたいのは、裏地とは何のために存在しているのか?ということだ。
それは、
裏地の一番大きな役割は汚れとか傷みから表を守る。
野球の4番のために送りバントをする2番打者のようなものだ。
スーツを脱いだとき、裏側に折り返してして畳んで、椅子などに置くのが良いのだが、これも表生地を汚さないため。
つまり、裏は表の保護の役割がある。
だから背の部分にも裏地がある方(総裏)が汚れや傷は表生地に響きにくい。
裏地の素材は昔の仕立て服だとシルクというのも多かった。
今は、ほとんどキュプラやポリエステル、または混ぜた素材になっている。
どの素材も、つるんとしていてとても滑りが良い。
滑りが良い、つまり、摩擦を軽減するという機能が裏地にはあるのだ。
特に背中のところはいつもジャケットに当たっているし、脱いだり着たりする時にも擦れてしまう。
関連記事:裏地の素材は
さらに、裏地は実は「汚れから守る」「滑りやすくする」だけではなく、裏地によって外側から見た時の印象も違ってくる。
このジャケットは、春・夏物だけど総裏仕様になっている。
ウールとモヘア(ヤギ毛)のジャケットで、総裏にして構築的(カチッと)に見えるようにしてある。
裏地があることで、ぴしっとしっかりとした印象になる。
なんとなく重厚感があるのがわかるだろうか。
反対に裏地がない背抜きスーツは背がペラっとする。
なんだかあのペラっと感&スケ感がどうも苦手という方もいると思う。
さらに、スーツの裏地は、表を整える効果もある。
表生地のウールは伸び縮みする。
引っ張って伸びることもあるし、湿気でも伸縮する。
梅雨時期と冬季で湿度が違うから、スーツを着た感じ(サイズ感)が違うことがある。
こうして動く特性がある表生地、呼吸しているという表現がしっくりくるかもしれないが、表が動いたとき、裏地でぴっと整えているのだ。
テーラーが基準とする良い服は、裏地は綺麗に貼られてない方が良いとされる。
ちょっと弛ませておくというわけだ。
そうすれば、表が伸びたり縮んだりしたときに、裏でバランスをとってくれる。
裏方は地味に表を引き立てるために全力を尽くしている。
では、背抜きのメリットとは何だろう?
写真は、秋・冬物のウール・シルク・カシミアのジャケット。秋冬だけれど、背抜き仕様にしてタイトシルエットにしてある。
背抜きのメリットは、通気性が良く涼しいことが全てではない。
体にフィットしてラインを強調できる、だから色っぽさが出る。
私も背抜きやアンコンのジャケットを多く持っているが、秋や冬物のカシミア混のジャケットで、フィット感やドレープの美しさを出すために背抜きやアンコンに仕立て上げることはある。
アンコンのシャツジャケットはカーディガン感覚で羽織る。
季節に関係なく、裏がない服はある。
気候の違いはあるが、ヨーロッパのスーツで背抜きスーツは私は見たことがない。
基本的にはスーツ自体、裏が重要な機能になる。
そこで、夏であろうとも総裏が基本ベースになる。
夏のスーツ・ジャケットに汗が直接素材に浸透してしまうと、耐久度に影響する。
つまり、背抜きのスーツという概念時代が、日本の量販店が作ったものなのではないだろうか?
現代ではクールビズで、ジャケット自体夏に着ないという文化も定着してきているが、上着を着るという方でも、暑さ対策は背中の裏地を抜くことではない。
夏特有の通気性の良いフレスコ素材(メッシュに織られていて、とても通気性が良い)とか、モヘア混(アンゴラヤギの毛、毛が太くて涼しい)のスーツ、またはリネン(麻)の薄い色のスーツを着るという方が理にかなっていると思う。
薄い色にするだけで、太陽の熱を吸収しづらくなる。
反対に、ジャケットは冬物でも背抜きやアンコンの服があっても良い。
イタリア物の高級なプレタ(既製服)のジャケットにもアンコンが多かった時代がある。
裏地も、肩パットも、芯もない柔らかい仕立てというのもなかなか色気がある。
私自身、数え切れないオーダースーツやジャケットを持っているわけだが、実は背抜きのオーダースーツは一着もない。
確かに、裏地がないことで涼しさは得られるのかもしれない。
でも、それだったらスリーピーススーツ(ベスト付のスーツ)を仕立てて、上着を脱いでベストだけで過ごした方がよほど涼しいし、見た目にもそちらの方が好きだ(アパレルの人間ということもあるが)
写真は、リネンのジャケット。そこにリネンのベスト、リネンのシャツを合わせた夏の服装。なかなか涼しい。
さらに見た目も、白蝶貝のボタンに、ボルサリーノのパナマハットを合わせ、一層涼感が出る。
このように、暑さ対策なら何も背抜きにしなくても、リネンは極端かもしれないが夏特有の素材がある。
それから、シャツをリネンやコットンリネンにするという手もある。
シャツなどのインナーの工夫でも随分と体感は変わるものだ。
(夏に上着は着ないでしょう?という声が聞こえてきそうだが、私たちのようなテーラーは職業柄夏でも上着は着るのと、本当は夏でも上着は脱がないものなのだ。)
夏はオフィスで上着を着ない!という方のであればなおのこと、夏スーツも総裏がおすすめだ、空調も効いているだろうし。
通年スーツとか、オールシーズンの生地、という言葉も巷に反乱したが、本当はそんなスーツは存在しないわけで、やはり夏は夏で暑いなかでもいかに涼しく・涼し気に装ってファッションを楽しむ工夫が大切ではないだろうか。
ということで、背抜きスーツは一体いつからいつまで着るのだろう?
それに対しての答えは、いつからいつまでもというよりも、着る服のテーマによって変えよう。
スーツはいつだって総裏がベストである、ということになる。
反対に、背抜きは冬でも背抜きジャケットがある。
ぜひとも単純に暑さという側面ではなく、多面的に裏地(総裏・背抜き)を考えてみて はいかがだろう?
さて、明日は何着よう?
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クールビズには、背抜きのウールスーツじゃなくてこういうスーツもオススメ
関連記事:コードレーンのスーツ
ライター:松 甫 詳しいプロフィールはこちら>>
表参道の看板のないオーダーサロン 株式会社ボットーネ CEO。
自身もヘッド・スーツコンシェルジュとしてフィッティングやコーディネートを実施。
クライアントは上場企業経営者、政治家、プロスポーツ選手の方をはじめ、述べ2,000人以上。
2017年4月11日
明日は何着よう?松はじめのスーツの着こなし術 | 背広紳士の知識
タグ:スーツの種類, スーツの仕様
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