ヨーロッパ退屈日記(伊丹十三)と地中海のピザと
オーダーサロン ボットーネの松 甫(まつ はじめ)です。
今週は平日も予約が多い。
偶然にもブラウンチェックのスリーピーススーツのオーダーが続いて、納品のタイミングもだいたい同じということが起こったが、同じ時期に同じようなテイストのスーツが続くことがオーダーサロンにはよくある。
単身アメリカに行く計画を立て、その目標に対してストイックに前進していくためのスーツを仕立てるため、とご依頼いただいたF氏の一着。ストイックにウエストラインを絞り込んだ1着は、見事にフィットしていた。
今日も機嫌良くランチに行こう。
地下に続く階段を下ると、パッと陽気な音楽が出迎えてくれた。
地中海にトリップしたような気持ちになったのは、日本人スタッフがいないこともあっただろう。
って、地中海に行ったことあったっけ?
・・ないぞ。
もう少し子育てとビジネスが落ち着いたら妻と行こうか。
席に座ると、流暢な日本語でシェフが迎えてくれた。
ランチはピッツァ!
ピッツァセット:ほうれん草とフェタチーズ、 たまごのピッツァ サラダ付 1300円
こちらではギリシャ、イタリア、トルコのワインとビールも豊富なようで、ヨーロッパの食がこうして手軽に味わうことができるというのは、日本というのは何て素敵な国なのだろう。とふと思ったのだった。
ところで、ヨーロッパといえば、ヨーロッパ退屈日記という本はご存知だろうか?
映画監督であった伊丹十三さんの若かりし頃に書かれた日記で、伊丹さんの考え方が伝わって来る。
また日本とヨーロッパの文化の近い、英国の横断歩道の様子、パリの女性がソックスを履かないことなどが赤裸々に伝わってきて面白い。
ちなみに、表紙にはこう書かれている。
・・
この本を読んでニヤッと笑ったら、あなたは本格派で、しかもちょっと変なヒトです。
・・
表紙をめくる。
およそ10ページも読み進めないところで、くすっと笑ってしまった私は、変なヒトだと自覚する。
この本を知ったきっかけはというと、セビロの哲学というテーラー・ボットーネで開いている講義のなかで、講師の大西基行先生が紹介していたのであった。
なぜ紹介していたかというと、洋服、洋の服。
洋の服なのだから、まずはこれはこのように着る、というルールもある。
まずそこも学んでみると良いよね、という話から、この本の話題になった。
さて、なぜヨーロッパ退屈日記が関係してくるのかというと、ある日、大西先生のお付き合いのあるイタリア生地の名門、カルロバルベラの代表が日本にいらした。
バルベラ氏とイタリア料理を食べていた大西先生。
と、その隣席のOLがパスタをスプーンを使って食べている。
《あれは?》とバルベラ氏。
日本ではパスタはスプーンを使って食べることが美しいと考えられている節はないだろうか。
お恥ずかしながら20歳のころの私は、彼女とのデートで決まってそうしていたけれど、これはベストではないことも昭和40年の伊丹十三さんの本で紹介されているから面白い。
ヨーロッパ退屈日記は伊丹十三さんが1940年、昭和40年に出したエッセイで、ヨーロッパから帰国した29歳なのだそうだ。
その頃の日本はといえば、今のように気軽にヨーロッパ旅行という文化はない。
海外に旅行するなんて、大変なことだ。
そのヨーロッパ退屈日記の中に、こんなフレーズがある。
・・・
フランスにミシュランというタイヤ会社があって、そこのドライヴ・マップと旅行案内書は最も権威あるものとして知られていることは前に述べましたが、そのイタリー篇には、スパゲッティの巻き方について、イタリー旅行する外国人たちに次のように警告しています。
「スパゲッティーを食べる時、決してナイフを使ってはならない。フォークを右手に持ち、スパゲッティを最大限二、三本ひっかけ、ぐるぐる廻し、巻ききってから口に運ぶ。最初にとるスパゲッティの量が多すぎると、巻いているうちにどんどん大きくなって収拾がつかなくなる。」
欧米人にとってすら、これは大問題なのです。まして日本人は、もう一つ重大なハンディキャップを背負っている。
ヨーロッパ退屈日記 伊丹十三 著(新潮文庫)より抜粋
ハンディキャップとは、同じ麺類を食べる文化において、すすって食べる日本文化のことだろう。
当時の日本人はスパゲッティの食べ方を知らず、おそらく伊丹さんはズルズルとうどんを食べるがごとく大ひんしゅくを買っている日本人の姿をヨーロッパで見たのだ。あのズルズルっと音を立てて食することは、非常に無作法・度外れた育ちの悪さ、と本書では揶揄していた。
と、なんとも細かくスパゲッティの食し方の解説がなされている。
本書ではもちろんファッションの話も盛りだくさんだ。
ローマにも存在しない。そもそも全然売ってないんじゃないかな。売ってても誰も買わない。
わたくしの好きな靴は、薄いスウェイドで作った、ごく軽い運動靴風のものであって、ある英国の友人にいわせれば、その呼び名は「ドッグ・シューズ」がよいという。
私がクスッと笑ってしまったのは、きちんとした装いをしているのに、なぜかバナナを耳に詰めている英国人と電車が一緒になってしまい、注意すべきかどうか・・と悶々とした伊丹さんの友人の実話の、オチだ。
ぜひ読んでみては?
ということで、特にヨーロッパではきちんとジャケットを着て、パスタも音を立てずに食べるよう心がけよう。
さて、明日は何着よう?
ライター:松 甫 詳しいプロフィールはこちら>>
表参道の看板のないオーダーサロン 株式会社ボットーネ CEO。
自身もヘッド・スーツコンシェルジュとしてフィッティングやコーディネートを実施。
クライアントは上場企業経営者、政治家、プロスポーツ選手の方をはじめ、述べ2,000人以上。
2017年8月22日
明日は何着よう?松はじめのスーツの着こなし術 | 背広紳士の知識
タグ:講義, ルール
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