NYとワシントンのアメリカ人がクスリと笑う日本人の洋服と仕草 著者の安積陽子氏&大西基之先生の話
本日はボットーネで開催している講義、メンズウエア素材の基礎知識&セビロの哲学の日。
朝10時を前に、続々と参加者の方々が集まってきた。セレクトショップで働いている方もいれば、大阪のテーラー原さん、福岡のメイドトゥメジャーの店舗にいる方、さらに今回は以前ボットーネで働いていた小寺氏も福岡から講義を受講しにやってきた。さらに、NYとワシントンのアメリカ人がクスリと笑う日本人の洋服と仕草の著者 安積陽子さんの姿も!
さて、一体どんな話が飛び出すのだろう?
今日の大西先生!
今日の大西基之先生は、一枚仕立てのトレンチコートで現れた。
ブラウンのコートにブラウンのハット。
チャコールグレーのスーツはフランネル。
一言で、かっこいいです。
大西先生とご一緒に!
大西先生はスエードのチェッカブーツ。
パンツの裾はダブル。
着るか着られるか 板についてくるとは能の言葉で、大西基之先生は着こなしも同じようなものだと語った。
スーツは、ある境遇を保証する魔法生の衣服。
白人もアメリカ人もスーツを着ている。習近平氏もオバマ氏もスーツを着ている。
つまり、スーツはきちんと着ているだけでそれなりの人間なんだ、という風に見える、そんな魔法の服だという説明だ。
そんな大西先生の講義、第2期はいよいよ今回で終わり。
また4月から第3期がはじまるのだ。
さて今回の内容は?
スーツ文化はすっかり定着した
講義は3時間で、間に10分の休憩を挟む。
前半は素材の知識。
大西基之先生の著書 メンズウエア素材の基礎知識を教科書として勉強する。
今日はコットンとリネンについて。
そして後半がスーツの着こなしについてだ。
後半のスーツの着こなしのなかで登場した話は、全文文章に起こしたいくらいに気づきのある内容なので、後半を中心にお伝えしたい。
さて、スーツがない時、日本は和服だったスーツが伝わる前は、和服を着ていた。
お隣中国も、西洋の服ではなくて人民服を着ていた。
明治になって福沢諭吉が西洋衣食住のなかで洋服を紹介した。そうやってスーツが広がって、今では朝の電車でスーツ姿の人がいない日はないくらい、スーツ文化は定着した。
NYとワシントンのアメリカ人がクスリと笑う日本人の洋服と仕草
服は着れるよね。
ただ、着てどういう動き、態度をするか?ってのは、積み上げるものだから。
自分で意識してやっているか、親に教えられるか。
西洋人は、日本人がお母さんが娘に着物の着方を教えるように、お父さんが子供に教えてきたんだよね。
大西基之先生
安積氏といえば、NYとワシントンのアメリカ人がクスリと笑う日本人の洋服と仕草 (講談社+α新書)の著者でもあられる。
その安積氏の著書にもこんなことが書かれている。
20代、ニューヨークに戻る。
大学の授業料を稼ぐために、マンハッタンのアッパーイーストという高級住宅街にある男性向け服飾店で働くことになったときの話である。(地図のあたり)
アメリカ人の親の英才教育
そのとき私は、装うことの意味やその楽しさを、父親が子供たちに生き生きと教えている光景に、何度も遭遇しました。
子供とともにお店を訪れたある男性は、ズラリと陳列されているボウタイ(蝶ネクタイ)のなかから、「これがお前に一番似合う色だよ」と、息子さんの髪色に調和したマットな(光沢のない)ボウタイを選んであげていました。
NYとワシントンのアメリカ人がクスリと笑う日本人の洋服と仕草(安積陽子 著)より抜粋
なんという英才教育!
どんな色が似合うか?を、小さなころから知って、意識できるなんて!
こんな教育ができる親って、日本にどのくらいいるだろう?
また、あるお客様は自分の手首を使って、まだ七〜八歳ほどの子供にボウタイの結び方を教えていました。「こんなに小さな子が、いまボウタイの結び方など知る必要があるのだろうか」と、そのときは思いましたが、小さな男の子が父親に教わった方法で一生懸命ボウタイを結ぶ姿はとても微笑ましく、何ともいえない幸福感が湧き上がるのを感じました。
NYとワシントンのアメリカ人がクスリと笑う日本人の洋服と仕草(安積陽子 著)より抜粋
これは大事。
ボウタイってものがあるんだ。そしてそれは手で結ぶものなんだな、と何でも吸収できる子供のときに感じることができる。
うちにも6歳の子供がいる。
私もこの話を見習って、何か服を着るたびに6歳に触ってもらって、この素材はね、とか、それはチェスターフィールドコートっていうんだよ。と、名称を教えるようにしている。
「最近オイルジャケット着ないね、どうして?」と聞かれたことがある。
秋に雨が多くて、私がバブアーのオイルジャケットをよく着ていたことを覚えていたのだ。この他、ブルゾンとかデニムについて、最近はボタンダウンのシャツはどういうときに着るか?を服を着替えるときに伝えていて、ふんふんと聞いているから、きっと理解しているのだろう。
親が服を教える
話を安積氏の本に戻そう。さらに、こんなことが書かれている。
ある男性は、アスコットタイとネクタイの両方を手に取りながら、その違いについて子供にも分かるように丁寧に説明していました。
父親が息子に対して「装い」とは何たるものかと教える光景は、私たちが住む日本ではなかなか見られません。しかし男の子の「装い」は、身近な男性である父親が一番の見本です。父親の服装に対する姿勢は、知らぬうちに息子に大きな影響を与えているのは確かです。
NYとワシントンのアメリカ人がクスリと笑う日本人の洋服と仕草(安積陽子 著)より抜粋
子供は、お父さん、お母さんの影響を受けて育つ。
それは、姿勢や言葉づかい、それに服装も。子供は見ていないようで見ているのである。そういうことを教えようとしても、お父さんが服のことをよくわかっていないから教えようがないのが日本なのだ。そしてお父さんのお父さんもそのまたお父さんも、ずっと洋服を着ている西洋では、服の文化とか着方を教育できる。
実際にニューヨークでも、お父さんは子供を連れて買い物にいき、どうやって服を選ぶか?どうやって着るか?それを生中継で伝えているというわけだ。日本ではどうだろう?お父さんの服は家計のなかの最後の支出になってしまって、まず削られるのがスーツ代。新しく新調しようか、というときに子連れで服屋に行こうという人はどれくらいいるだろう?
さて、こうして安積氏の本も登場しつつ、大西先生の講義は続いた。
大西先生も、セビロはあくまでも紳士、すならちより良きビジネスマンのためにあるのであって、遊びや男をあげるためにデザインされ作られているものでない、とおっしゃっていた。そして、昔はスーツが高かったから、大切にしたのに、と現代日本のスーツスタイルに対しての考えやスーツの扱い方を危惧されていた。
僕の若いころは、安い服はなかった。
今は作業服だよね。
服も靴も休ませることもせず、下手したらちゃんとハンガーにかけてるのかな?って思うときがあるよ。
自分がどう見られているか?って考える人があまりいないんだよね。
いい服着てるな、って言えるのは、言う側も服に興味がないと言えない。でも、服に興味がある人が少ないですね。
安積さんの本のその通りなんだけど、麻生太郎がサミットで(各国の首相が全員ネイビーだったのに)ブルーグレーのスーツ着ちゃって。
それから、会議中に俺の時計見ろよ、と。
いい時計をつけるのは良いけど、見せるのは・・・
イタリア人はその辺、瞬時に判断するもんね、じっとみたりしない、瞬間的に。
対立したときに自分が上か下か、という判断をしてるんだろうね、自然に。
変な格好してると微妙にばかにするんだよ。
大西基之先生
そのあたりはどう思う?という大西先生の問いが安積氏に向けられたときに、こんな話が飛び出した。
パーティーは、はじまる前に勝負が決まる
会場に入るとき、普通はすーっと入るじゃないですか。
でも、一回溜めを持つ。
力なり教養なり持っていることを見せ示す。
さーっと入って行くと、見せるほどの物を持っていないと判定されます。
見られちゃ困るって方はそのまま入っていきます。
パーティーは入り口で勝負がつきます。
安積陽子さん
大西先生の左奥に見えるのは、JAPANESE DANDY MONOCHROME ジャパニーズダンディーモノクロームという写真集。
日本のそうそうたるジェントルマンが掲載されている、圧巻の写真集。
表紙は私たちテーラー業界の神、信濃屋の白井さん。
もちろん大西先生も登場している!
リュックしょってオペラ行っちゃう人っているのよ。
それでバカにされた、というの、今度はたくさんの宝石をつけて行こうとして日本から持っていったら、ホテルで盗まれちゃった、っていうオチなんだけど。
日本っていう島の中で生きてる分には困らないんだよね。
あいつあんな格好しても、いい学校出てるからって。
でも海外に一歩出た瞬間、見られるね。
イタリア人なんかは靴だな。
靴だけは結構注意しないと。
時計なんかも、時計はイタリア人は見るね。
大西基之先生
やっぱり、僕らはどうしても島国にいるから、そこまで服に敏感な人ばかりでないわけだし、これで良いかなと考えがちだ。
例えば、今日出社するのにどういう服を着ようか・・・と30分以上悩んで出社した人はどのくらいいるだろうか?
パッと手にとったネクタイを巻いて、昨日と同じスーツでもわからないだろう、誰も見てないから。と着ている人もいるかもしれない。それは日本では問題にならないのだが、文化が違う海外では大問題に発展することがある。
例えば、先ほどご紹介した安積氏の本のなかでも、こんな日本の恥ずかしいエピソードが紹介されていた。
欅坂46の服装が大問題に!
NYとワシントンのアメリカ人がクスリと笑う日本人の洋服と仕草(安積陽子 著)より抜粋
いやー、みなさん、ご存知だっただろうか。
つまり、私たち日本人からしたら、いいじゃない、アイドルの衣装なのだし。というくらいに捉えることでも、世界的なタブーに触れてしまったのだ。
これは話題にするために意図的だったのかもしれないし、あるいは番組関係者も知らないのだ。
NYとワシントンのアメリカ人がクスリと笑う日本人の洋服と仕草(安積陽子 著)より抜粋
日本の常識は世界の非常識?
世界の常識が日本の非常識ということはたくさんある。
日本は成熟していて素晴らしい国、インフラも整っているし住みやすい、安全。
でも、私も中国でお店をやったことがあるのだが、熾烈だ。はっきり自己主張しないと相手のペースに呑まれる。
いい、のか?ダメ、なのか。
また、ビジネスパートナーから、日本の企業は意思決定が遅すぎる、と言われたことがある。
縦割り構造だから、なかなか決済が降りなくて、提案して企画を通そうとしてから1年かかってGOが出たそうだ。
そのパートナーが同じ提案を韓国の企業に行ったところ、1ヶ月かからなかったそうで、ほら!ともう始まった企画を見せてもらった。
YesかNoか、はっきりしているな、と思った。
逆に、日本人の情緒的な、曖昧な、空気を読む能力ってすごいな、と感じた。
おもてなしをするとか、場の空気を読んで控えめに発言するとか、和を尊ぶということはとても素敵なことだ。
だけど、国際社会という中ではそれが必ずしも良い方向に捉えられるとは限らないのではないだろうか?
服もまったく同じことがいえる。
戦争や文化と深く関わっているのが服でありスーツだから、日本ではOKでも世界では恥を欠いてしまい、礼儀を欠く態度だと捉えられてしまうことが実際にあるのだ。
今日も熱い講義だった。
そして、今度大西先生と安積陽子氏が話しているところを取材して、記事にしてみたい!
ということで、世界のどこに行っても恥ずかしくない服装、もう一度スーツスタイルを見直してみようか。
さて、明日は何着よう?
・・・
安積さんの著書 仕事で海外に行く、という方は絶対に読まないと損をする!と断言できる本。
私も読んで、クルー全員にすぐ読むように!と言った本。
わかりやすく写真で解説されているので、これは1家に1冊置いておきたい本だ。
ライター:松 甫 詳しいプロフィールはこちら>>
表参道の看板のないオーダーサロン 株式会社ボットーネ CEO。
自身もヘッド・スーツコンシェルジュとしてフィッティングやコーディネートを実施。
クライアントは上場企業経営者、政治家、プロスポーツ選手の方をはじめ、述べ2,000人以上。
2018年2月6日
スーツの着こなし術 | TPO
タグ:講義, 大西基之先生, 着こなし
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