リリーのすべてとタキシードと
オーダーサロン ボットーネがお届けするビジネススーツ&フォーマル通信。
いよいよファッションの秋である。そして秋は、芸術の秋ということで、美しい映画もたくさん観たい時期だ。
ファッションと映画は切っても切れない。時代背景を細かく描写しているから、当時はどのような服装をしていたのか?というヒントが得られるものだ。
ファッションも楽しめる映画ということで、少し前の作品だがリリーの全てはご存知だろうか。
リリーの全ては、世界で初めて性別適合手術を受けた男性について描かれた映画である。
舞台はデンマークの首都コペンハーゲン。
肖像画家の妻が、風景画家の夫と暮らしていたのだが、ある日、妻が描いていたモデルが来られなくなった。
そこで夫に、脚のモデルになってほしいとお願いする。
それがきっかけで女装をさせて、冗談のつもりで知人のパーティーへ連れて行った。
「彼女はリリーです。」と紹介した。
パーティー会場に入ると、フィットした燕尾服に手結びのホワイトタイを付けたジェントルたちが、次に踊る女性を目で追いながら美しくリードして踊っている。ふと見ると、妻は知人と談笑している。
一人になってしまった美しく女装したリリーの横に、一人のジェントルが座る。
リリーに話しかける紳士。
ふとした瞬間に二人は廊下で運命的に出会う、そして唇を奪われるリリー。
こうして目覚めてしまい、困惑する妻とのその後を描いている。
ところで、妻はパリで、夫の幼馴染みの画商に相談を持ち掛けるのだが、妻と夫の幼馴染み、二人で食事をするシーンがある。
燕尾服を着るのかなといえば、そこまでかしこまった食事ではなく、内輪の食事だ。
ということで夫の幼馴染みはタキシードにブラックタイを装っている。
おや?シャツの襟はウイングカラーだ。
実はイギリスやフランスでは現在もタキシードにはウイングカラーではなく、レギュラーカラーを合わせる文化がある。
なぜかというと、燕尾服を着るような公式な場ではなく、くつろいだ時に着るのがタキシード。
だからウイングカラーのような公式なシャツではなくて、普通の衿を装う。
ところがこの燕尾服。
食事の時に着用して、脱いでジャケットだけタバコ用の服に着替えて男性はタバコを愉しんだ。
この時にほとんど燕尾服の装いのまま、長いテイル付きのコートだけを、短いショールカラーのジャケットに変えた。
このジャケットはスモーキングジャケットと呼ぶのだが、後に英国王室が温暖なリゾートで、ヨットの上だから良いかな、ということでスモーキングで食事をするようになった。これがディナージャケット、アメリカ名称はタキシードとなったわけだ。
つまり最初のことはウイングカラーにタキシードを合わせていた。
現在では英国でもウイングカラーにタキシードを合わせるスタイルが流行っているそうだが、この映画は1926年という舞台。
タキシードはいつから普及したのだろう。
燕尾服をあまり着なくなって、タキシードを着るようになった、それが1930年だ。
タキシードもよく着るようになって、本当に公式な服が燕尾服という位置になった。
それで、燕尾服はウイングカラー、タキシードはくつろいでレギュラーカラーとなる。
この映画の時代背景は1926年で、当然のように燕尾服を着る。
そのあたりを監督やスタイリストは見抜いたのだろう。
ということで、まもなくやってくるクリスマス、ディナーにはタキシードにレギュラーシャツで臨もうか。それともウイングカラー?
さて、明日は何着よう?
ライター:松 甫 詳しいプロフィールはこちら>>
表参道の看板のないオーダーサロン 株式会社ボットーネ CEO。
自身もヘッド・スーツコンシェルジュとしてフィッティングやコーディネートを実施。
クライアントは上場企業経営者、政治家、プロスポーツ選手の方をはじめ、述べ2,000人以上。
2017年10月27日
フォーマル | オーダータキシードの歴史
タグ:服飾史, タキシード, シャツ, 映画
おすすめ記事
- NYとワシントンのアメリカ人がクスリと笑う日本人の洋服と仕草 著者の安積陽子氏&大西基之先生の話今日の大西先生! 今日の大西基之先生は、一枚仕立てのトレンチコートで現れた。 ブラウ…
- 真のファッションスクール開校 スーツ、カジュアル、メンズファッションの着こなしを学ぶ講義大人の授業 静まり帰った教室に、伝説の教師が入ってくる・・・ こつこつこつ、先生の歩…
- タキシードのカマーバンドとは?知るだけで着こなしが変わるフォーマル知識「せっかくというわけではないのですが、メスジャケットを着てまいりました。 本日はまず…
- もう惑わされない!同じSUPER120’sなのに、金額が違うのはなぜ? この記事の目次 スーパー表記が同じ120でも同じ品質ではない バルベラやロロピア…
- スーツウォーク 2日目は大西基之先生はじめ中村達也さん、鴨志田康人さん、鈴木正文さん、吉國武さんらが登壇した講演スーツウォーク1日目の様子 スーツ好きが集う!台湾スーツウォークはアジア最大級のファ…
- 松はじめ 私のプロフィール松はじめ 1978年3月生まれ 富山県出身 写真家の祖父を持ち、母は元ブティックの販…
- タキシードの豆知識 拝絹、側章って何のため?オーダーサロン ボットーネがお届けするビジネススーツ&フォーマル通信、松はじめです。…
- 3分でわかる初めてのオーダースーツの打ち合わせの流れ!既製服との違いの講義をしましたオーダースーツ作りはコンセプトを話し合うことが出発点 オーダースーツを仕立てよう、と…
- マリネッラ(Marinella)のネクタイ セッテピエゲをオーダー!六本木にナポリからアレッサンドロ氏来日世界を代表するナポリ生まれのネクタイ マリネッラは今や世界を代表するナポリ生まれのネ…
- オーダーサロン ボットーネ TV出演 NHK BSの美の壺という番組(華やぎボタン)今日は、NHK BSプレミアム 美の壺という番組の収録で、 14時からサロンをクロー…