【クルー全員倒れる】危機で感じる、人の大切さと仕事の楽しさと
仕事をしていると日々いろいろな気づきがあるのだが、人間とは何かピンチがあると、たくさんのことに気づくものだ。
またしても大きなピンチと、大きな気づきがあった。
今日の記事では、
・人の大切さ
・この仕事の楽しさ
ということを痛感した、ここ数日のことを書いてみようと思う。
定休日に届いたショートメッセージ
その日はチェルッティのジャケットにデニムを合わせて、いつものカフェで、いつものようにMacBookと紙のノートを広げていた。
春の洋服の提案はどうしようか。
新しい企画は何月からスタートさせようか。
そんなことを考えながら、いつもの美味しいコーヒーを口にする。
と、私に、一通のショートメッセージがきた。
何だろう?妻が子供の写真でも送ってきたのかな、と思いながらアイフォンのショートメッセージを開く。
1人おやすみ
なんと、内容は・・1名のクルーが倒れてしまったのだ。
大企業ではないので、このサロンは3人で運営している。
私を含め、3人だ。予約の受付、洋服の打ち合わせ、設計もそうだし、こういうウェブも生産管理も3人だ。
ちなみにこのウェブサイト(BOTTONE.jp)も自作だ(笑)
3人だから大変だ、1人の力が大きいし、よい服作りには人が欠かせない。
それに今日は木曜、明日は金曜、すると、、土曜と日曜がやってくるではないか!
もう事前の予約をたくさんいただいていて、最初の打ち合わせとか、仮縫いとか、納品とか、事前にスケジュールを組んでいる。
コーヒーを持つ手がじとっと汗ばむ。
きっと、レストランなどでも同じようなことがあるのだろう、
フロアスタッフがやけに少なく、非常に忙しそうな風景を見たことがある。
協力して乗り切ろう
でも大丈夫、
私と、もう1名のクルーと、
彼は私からみたらまだまだだが、力をつけてきている。
私のアシストは充分できるから、力を合わせて乗り切ろう!
すぐにもう1人のクルーに電話をして、事情を話す。
そ、そうですか、明日から混んでいますよね、でも頑張りましょう!と打ち合わせを終えた。
なんとかなるように段取りを組んで、なんとかなった、とこの時は考えていたわけだ。
だが、甘かった。
まさかの坂は時々超えるもの
なんということか、金曜朝、もう1名のクルーからショートメッセージが・・・
その彼まで倒れてしまった!
なんと、私以外のクルー全員が倒れてしまった。
そのようなわけで、
私は金曜日の朝、一人出社して、電気をつけた。
金曜は予約がずっと入っていて、どうも、とご挨拶してからコートを預かり、打ち合わせを進める。
生地を提案して、採寸とフィッティング、そして納品までのタイムスケジュールを組みながら、裏地で盛り上がる。
こうしてあっという間に金曜が過ぎた。
問題は土曜・日曜・・・
ひたすら電話とメールをする
クライアントとクライアントの打ち合わせの合間に、
懇意にさせていただいているクライアントの方に日程の調整を依頼した。
時間を開店時間前に調整したり、翌週にお願いしたり、
このようなことは初めてだったため、心苦しかったがどうしようもなかった。
それから卒業生たちに電話をした。
スタイリストを目指し、ファミリーマートとボットーネとスタイリストのアシスタントを掛け持ちしていたS君に電話をした、だが、S君はスタイリストとしてしっかりと独立し、着々とファッション・ブランドの新作スタイリングを手掛けていて、さすがに今日の明日では調整できなかった。
小寺君はもう福岡に帰ってしまったし・・・
そうだ!
と、そうして、過去ボットーネでアルバイトをした経験のある、
美大生の通称クッキーという子が快く夕方からなら、と来てくれることになった。
緊急のアシスタント
ということで、新作タリアデルフィーノのバンチブックを持ったクッキー。
クッキーは手が空けば何か仕事を探しては、これやりましょうか?といい、隙間時間も手を休めることがない、非常にまじめな子で、大学でも服作りをやっている。
土曜、彼女にアシストしてもらい、無事土曜のサロンの打ち合わせを終えた。
たったそれだけのことなのだが、
事前に段取りを組んで、このクライアントはこのくらいの時間で、
この採寸は先に、仮縫いは入念にするために事前に裏地も打ち合わせして・・・
あぁでもない、こうでもない、なかなか気が気でなかった2日間が過ぎる。
ピンチでチームの大切さが身にしみる
過去、フィッターやアシスタントが最大7人在籍していた時代があったのだが、
そのくらいの人数が常にいたならば何かあっても余裕がある。
ただ、緊張感がなく、みなではないが情熱的に仕事を覚えよう、という姿勢が薄れてしまった。
そういうサロンを求めていたわけじゃあない!と、その時のマネジャー小寺と、再生を決断したのだった。
それからクルーが何度も入れ替わり、
専門職ということもあり、一緒に洋服を志す仲間と巡り会えない日々が続いて、
現在のボットーネがある。
日々こうして皆が出社しているということに、もっと感謝しなければならないのだ。
この仕事は楽しいと実感
2017年現在、私はどっぷり現場にいる。
新しいクルーは飲み込みも早くすくすく育っていて、
どんどん私の仕事をとっていく(良い意味で)
ところが今回、彼らがいない日々を過ごしたことで、
あぁ、こういう仕事があったなぁ、この躾って大事だな、とか、
この素材の提案、もっと見せ方を変えられるのでは?など、考え出すときりがないくらいアイデアが湧いてくる。
友人で、もう現場をリタイアした経営者もいるけど、私は最後、このサロンで死ぬのも悪くない、と思ったのだった。
実はこの会社が一番楽しかったんです
土曜日にピンチヒッターでアシスタントを務めた、女子大生のクッキーは自分のことを積極的に話すタイプではないが、仕事の合間にぽろっとこんなことを言った。
《今となってみると、この会社が一番楽しかった、私には合っていました》
彼女にとって、ボットーネが生まれて初めてのアルバイトだった。
人生初バイトがテーラーというのはなかなか刺激的だ。
彼女は課題で忙しくなってボットーネを卒業、
その後は融通の利くアルバイトやセレクトショップにもスイッチしてアルバイトをしていた。
こうして現在は週に2回、洋服を縫う仕事をやっているらしい。
仕事量も多く、範囲も広い、専門用語も覚えることも少なくない、
それで雑務も多い仕事だが、いろいろなアルバイトを一巡した結果、そう思ったようだ。
《いらっしゃる方も他のお店とは違っていました》と言った。
確かに、いろいろな方がボットーネの門をくぐるが、そのように思うことがある。
《(経験したセレクトショップでは)商品知識の研修がないから、感覚で勧めるしかないんです》
とも話してくれた。
この距離感で話すと売れる、という研修のようなものはあったらしいのだが、
商品の素材とか、デザイン、コンセプトなどの研修はないのだそうで、
独学で学ぶしかないのだそうだ。
独学といっても教科書があるわけではなく、
そういう理由で、
《こちらの方がお似合いです》
《今期の最新作です》
《コレクションにも登場していまして》
《あと◯着で終わりです》
というような、服と何も関係ない話をして売らざるを得ないのだそうだ。
全てのセレクトショップがそうだとは決していわないが、これでは余程好きで勉強している店員か、
または勧め上手、コミュニケーション能力の高い人、しか残らないわけだ。
それらが悪いわけではないが、
セレクトショップは特に、店員によって提案のブレが大きいということになる。
テーラーは楽しい
考えてみれば、彼女が在籍していたセレクトショップや路面店のように、
次々に新作が入荷してくる環境であれば、深く知識を広げるということはしづらい。
逆に私はテーラーで、昔も今も変わらないことを、ぐっと掘り下げて勉強して、
そうやって学んだことを提案することで、喜んでいただける、
テーラーという仕事で良かったなぁ、と改めて気づかされた。
じっくり、一人一人と、一着一着と向き合う、
時間をかける。
その方にあった服を提案して、フィッティングして、作り上げる。
まさに対話しながら、ビ・スポーク(Be spoke)の意味でもある。
納品のとき、その方のための服が、当たり前のようにぴたっとその方にフィットする、
そして、似合う。
タイを、靴を合わせて、バッグを持つ、
服と人、まさに人馬一体となり、パーフェクトなスタイルが鏡に映し出される瞬間だ。
ずっとそれが当たり前だと思っていたのだ、
だが、当たり前のことにこそ感謝なのである。
誤解がないように、まとめ・どの仕事も楽しい
仕事に楽しさは不要、とか、
仕事は楽しいものじゃない、という考えもあると思う。
が、仕事は楽しいと思うし、楽しまないと損である。
この会社も10年かけて、少しずつ少しずつ改善して、たくさんのクルーの成長を見てきた。
サロンを一歩出たところで悔しくて泣き出す子もたくさん見たし、
納得のゆく仕事ができたことに喜び合っている姿も見た。
それでこうやっていきなり全員が倒れる、というのも、その瞬間はもちろん大変だが、さぁてどうやって乗り切るか・・・と練っているプロセスも楽しめるのだ。
そもそも1日の中の半分以上仕事しているのだ、
楽しい方が良いし、どんな仕事も楽しいと感じる部分はある。
今、という点の成果だけを見ると、何をやっているのかわからない、そんなこともあると思う。
だが、いつかその点が線になる。
例えば大ピンチのなか、応援にかけつけてくれたクッキーがまた来ることになったのは、過去彼女がボットーネというフィールドでアルバイトをする道を選んだからであって、彼女が昨日この会社で働いたことで、今後就職したときに、あぁ、あのとき!と思えることが出てくるかもしれない。
6年前、おそらく震災があったために偶然空いたのが今のサロンで、それがなければ表参道に移転しなかったし、
12年前、偶然テーラー業を営んでいる方と知り合い、
15年前、仕事上、半ば強制的に仕立てていただいたオーダースーツがなかったら、
おそらく今はないと思う。
成果を追い求めて達成するのも楽しいが、
無我夢中に走っているとき(プロセス)も意外と楽しい。
仲間で喜び合うのも、
クライアントの笑顔が見えれるのも、
そもそも服の打ち合わせをしているのも、楽しい。
楽しいから、もっとこうしたらどうだろう?と創意工夫が生まれる。
これを機に私も今日からさらに楽しんでいこうと思う。
ライター:松 甫 詳しいプロフィールはこちら>>
表参道の看板のないオーダーサロン 株式会社ボットーネ CEO。
自身もヘッド・スーツコンシェルジュとしてフィッティングやコーディネートを実施。
クライアントは上場企業経営者、政治家、プロスポーツ選手の方をはじめ、述べ2,000人以上。
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