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明日は何着よう?松はじめのスーツの着こなし術

【葛利毛織のションヘル織機をこの目で】スーツ生地 dominx(ドミンクス)を織る日本の織元

オーダーサロン ボットーネがお届けするビジネススーツ&フォーマル通信。

松はじめです。

スーツやジャケット、コートの生地の織元、というとどの国や地域が思い浮かびますか?

イギリスのヨークシャー?

イタリアのビエラ?

日本にもあるのです。脈々と受け継がれた、伝統的な織機で、世界のどこにも真似できないような生地が織られています。密かに世界のメゾンや有名生地商社からも発注を受ける、尾州の葛利毛織です。

葛利毛織ではションヘル織機という80年前の織機で今でもスーツ生地が織られています。
一体、どんな秘密があるのでしょう?
ションヘル織機の魅力やメリットは?

名古屋から電車を乗り継いで、大量生産・スピード化とは無縁の葛利毛織の工程を追ってきました!

この記事の目次

名古屋駅から真っ赤な名鉄電車に乗る。

私が6歳の時に大好きで持っていたプラレールに、名鉄パノラマカーがある。名古屋駅から特急に乗った。パノラマカーか!と思ったら、9時27分名鉄名古屋発の特急には展望車両はなかった。
ところが、自由席も座れると思いますよ、と言われたので行ってみたが、座席は埋まってしまった。重いボストンを持っていたことに気づいた方が席を譲っていただき、葛利毛織に到着する前にほっこりした気持ちになった。

一宮から乗り換えて終点 玉の井へ。
小さな街に、葛利毛織はある。
小さな無人駅に降り立った私たちは、大きな鼓動で心踊っていた。

織機の音とノコギリ屋根が出迎えてくれた

葛利毛織に入るずいぶん手前から、カシャンカシャンと心地良い織機のこだまする音が鳴り響く。
リズミカルに響いてくる音の中に、人の想いがあって企画され、織り成される生地と職人たちの姿がある。

そして80年前から変わらない織機、ゆっくり良い生地を今でも織り続けている、ションヘル織機まであと少し!

ションヘルとは、一体どんな織機なのだろう?

葛利毛織付近には、今は廃業してしまったという織物の姿を見て取れた。

ところでこういう屋根を見たことはないだろうか。
ノコギリ屋根といい、産業革命が起こった英国の織物工場に現れたと言われている。
屋根の北側には窓が貼られているのは、北からの光が色ブレしづらいからだ。
南側なら朝、正午、夕方と色が変わって見えてしまう。

尾州、葛利毛織のある周辺は、織元はたくさんあったのだ。

しかし今となっては数軒となってしまった。
住宅街を歩いていると、規模は違えど同じように織機の音がこだまする工房も残っていた。

駅まで私たちを出迎えて下さったのは、葛利毛織の社長 葛谷 幸男氏。
木曽三川の美しい水は、英国のヨークシャーなどの環境に似ていた。この地域は織物の産地として発展してきた。
慶応年間に創業された日本の織元、葛利毛織にお伺いさせていただいた。

「今でも米沢はシルクやっていますね。岡山はジーンズ、浜松は綿です。桐生の方は絹織物です。

もともと日本では、羊毛が四日市に上陸して、津島へ。
そこからこの木曽三川にきました。

水が綺麗で働き者じゃなけいけんということで。
織物に変わったのはこの木曽三川。」

1キロの糸から始まる物語

イタリアや中国の巨大な織元は、原毛から糸にして、糸を織物にするという工程まですべて担う、一貫紡(いっかんぼう)と呼ばれるタイプの織元がスタンダードになっている。

[speech_bubble type=”std” subtype=”a” icon=”7Q6A3743_result-860×573.jpg” name=”松はじめ” ]ここ、葛利毛織さんでは、ウールの原毛を糸にするところから行っているわけではありません。
糸を、織物にするというところに集中しているのです。
それも、ションヘルという低速織機を使って表情のある生地を織りなすことを得意としています。[/speech_bubble]

糸を機械にセットすれば、自動でスーツ生地が出来てくるのだろうか?

もちろんそうではなかった。

[speech_bubble type=”std” subtype=”a” icon=”7Q6A3743_result-860×573.jpg” name=”松はじめ” ]これから葛利毛織の職人さんにくっついて、糸がどうやってスーツの生地になるのか?を追ってみたいと思います。[/speech_bubble]

まずは経糸の準備から

葛利毛織に限らず、生地を織るには、経糸(たていと)と緯糸(よこいと)が必要になる。
まずは経糸を準備してから、すべてが始まる。
織機にかかるのは経糸で、そこに緯糸を通して織物が完成されるからだ。

経糸は、織機にかけて強いテンションがかかる。
だから基本的には2本の糸を1本に撚り合わせた、双糸(そうし)という糸が使われる。

糸の塊を細かくする

だいたい1キロくらい、写真のような感じで葛利毛織に届いた糸。
これを使って、私たちが普段着ているスーツやジャケットの素材、織物に仕上げるわけだ。
現段階ではどこからどう見ても、ただの糸である。

この1キロの塊だと、次の工程に進めるのには効率がいささか悪い。
そこで、まず細かく分けてみる。

カウンターがついている。

今、何メートル巻き取ったか?と、計測。

これで、1キロの塊を、5分割とか、10分割にしていく。

随分とこぶりになった糸たち。
こうして巻き取ったものを使って、いよいよ次の工程へ。

今度は、さきほど細かく分けた糸が、順番に並んでいる。

糸たちが等間隔で並んでいる光景は、今にも一斉攻撃を受けそうな、まるで敵の基地に侵入したような感覚に陥った。

和同開珎のような小さな重りが登場した。
ここでは、糸の微妙なテンションを重りを乗せることでコントロールしていく。

糸1本に対して、重りを何枚乗せるか?

素材に合わせてテンションを微調整する。

同時に、ストライプやチェックの場合は、何本目にこの色!と指定があるので、この時点で計算しておかなければならない。

ネイビーの糸に挟まれて、ボルドーの糸がある。
この配置を間違えると違う柄になってしまう!
間違いないように引っ張って経糸にしないといけない。

とにかく気の狂うほど細かい作業だが、微妙なさじ加減を加えて。
人間の感覚が重要になってくる。

整経機(せいけいき)で巻き取っていく

そこから引かれた、およそ300本の糸。
葛利毛織のベーシックなスーツ生地で、使用する経糸は端から端までで、だいたい6,000本を使うのだそうだ。

しかしまず300本に分けたものをどうやって6,000本に引き揃えるのだろう?

答えは、この機械に300本を巻き取る。

100m織るのなら、300本を100m進める。
今度は横に動かして、また100m進める。
これを繰り返していく。

先ほどのボルドーが混入している。
フレンチテイスト漂うネイビーにボルドーのストライプのスーツ生地になるのだろう。
これを見て、ネイビーにボルドーのストライプスーツを仕立ててみようか、と思ったのはおそらく私だけだろう。

300本の糸を、巻き取る。

注文の長さでカットして、

すぐ横に移動して、また巻き取る。

この経糸を巻き取る機械は、整経機(せいけいき)という。
据付の機械だから、移動できない。

一度巻き取ってから、別の道具に巻き取る。
それをようやくションヘル織機に持っていくのだといぅ。
古き良き機械たちはメンテナンスされ、愛されて使われている。
何事も効率重視の現代では考えられないかもしれないが、個々の機械の事情を考えながら、織元の人間は呼吸を合わせるのだ。

この道50年、ションヘル織機にセットするパイプに巻く

まるでダンベルのような、重さ約80キロのパイプ状の棒に、さっきの6000本を巻き取る。

巻いて、巻いて、巻いて。
タッチパネルも、何もなし。

この時、端から端まで、均一にテンションがかかるようにしないといけないのだそうだ。

「ここが、経験しないと難しいんですけど、固すぎても柔らかすぎても・・・。程よい硬さで。
糸によってもテンションが変わります。
この道50年の職人の方について、一緒に硬さの調整をしながら、巻いていきます。」とは葛利毛織さんの職人。

どんなところにもその道のプロと呼ばれる職人がいる。
職人の技とは、こういった微妙なサジ加減で織り成される。

技とは、経験である。
技とは、感覚である。

3日間、ただひたすら糸を通す綜絖(そうこう)通し

こうして綜絖(そうこう)通しという工程に進む一同。

真剣にメモをとる。
現代はスマートフォンアプリでメモをとり、音声をとる。

[speech_bubble type=”std” subtype=”a” icon=”7Q6A3743_result-860×573.jpg” name=”松はじめ” ]タクシーはアプリで呼ぶ時代。SNSで世界のスナップは瞬時に公開され、人が考えるよりも早く的確な速度でAIは仕事を処理していく現代。
最新のモバイルを操る人と、伝統的な機械を操る人、対照的な2つの事実がタイムスリップした映画のワンシーンのようにも見えます。[/speech_bubble]

今度は、綜絖(そうこう)通しという、熟練の技が要される工程だ。

針金のようなものの中央付近には、糸を通せる小さな穴が。
この穴に、人の手で地道に糸を通していく、これが綜絖通し。

先ほどの工程で触れたように、一番王道の生地で経糸は6,000本。

なんと骨の折れる作業なのか!

ちょうど今進行しようとしていた生地では、必要な本数は8,000本。

なかには10,000本、15,000本になるものもあるという。

ここで、みなさんにクイズです。

Q:だいたいの生地は同じ幅。
なのに、使う経糸は6,000本の時もあれば、15,000本の時もあります。
なぜそんなに経糸の数が変わってくるのでしょう?

答えはこの記事の最後で!

[speech_bubble type=”std” subtype=”a” icon=”7Q6A3743_result-860×573.jpg” name=”松はじめ” ]葛利毛織では、端から端まで6,000本なら6,000回、ひたすら糸を通していくのです。
1つの生地の経糸、この作業だけで2〜4日かかるそうです。[/speech_bubble]

今回は、このそうこうの引っかかった棒が、12本並んでいた。

この枠ごと、上がったり下がったり、上下運動をする。
それで、経糸が開いたり閉じたりを繰り返すという仕組み。

実際のションヘル織機でどうやって動くいているのか?をご紹介したい。

今度は、先ほど1本ずつ穴の中に通した糸を、設計書で指定された本数通り、手前の道具に揃えていれていく。
今回の指示は4本だった。
4本を引き、筬(おさ)と呼ばれる金具にいれていく。

筬は、経糸1センチあたりに何本糸を引き揃えていくか?という密度を決めるための道具。
なので、もともとの綜絖の通し方を間違えてしまうと、織り柄が変わってしまうことになる。

そして、筬の本数を4本ずつのところ、一箇所だけ6本などと間違えたら、織物になったときにある部分だけ密度が濃くなり、おかしな筋が入った生地に織りあがってしまう。

1つのミスも許されない。
細かく、細かく、チェックしながら。葛利毛織では4回のチェックを挟み、間違いなくOK!となってから進めているのだそうだ。

ションヘル織機といえば、このシャトル

こうして経糸の準備が整った。

緯糸を布に供給していく、というのが葛利毛織の一番の特徴だ。

巨大なタケノコのような管たち。

この管に糸を巻きつけていく。

巻きつけていくのは機械だが、ここで細かな調整が入る。

重りだ!
これで、テンションを調整していくのだ。
こういうきめ細やかな配分を人間が行う、葛利毛織の熟練の技に他ならない。

巻き方も、固すぎても柔らかすぎてもダメなのだそうだ。

「最適な固さを人間の感覚で調整しながら巻いていきます。」

これを先ほどのシャトルと呼ばれる機械に入れて、緯糸を供給していくのだ。

これがセットされた様子。

実はこのシャトルはボットーネのサロンに展示してあるもので、その昔葛谷社長にいただいたものなのだ。

シャトルは600gくらいの木の塊。先端は尖っている。
葛利毛織のションヘル織機の中を、右に左にと動く。
それでスーツ生地が織られていく。

いよいよションヘル織機登場

葛利毛織のションヘル織機の裏面にまわらせていただいた。

最初にダンベルのようなものに巻き取った経糸、ここにセットされていた。

6,000本以上が綜絖に通された状態は圧巻。
何かの楽器のように音を奏でられそうだ。

すべての糸を、同じテンションで反対側に引っ張っていく。

さきほど1本ずつ通していた綜絖だ。

その向こうには4本ずつ通した筬が。

ステンレスの板が何千本もくっついている!

実はこれ、経糸1本に対してステンレスの板1本通っている。
経糸が切れると、板が下に落ちる。それで、自動的にションヘル織機が止まるという仕組みなのだ。

結構切れてしまうものなのだろうか?

「物によっては、1つの反で5箇所から10箇所くらいです。」

[speech_bubble type=”std” subtype=”a” icon=”7Q6A3743_result-860×573.jpg” name=”松はじめ” ]

品質の良い糸は切れづらい、悪い糸は切れやすい・・・そんな裏話も教えていただきました。

糸が切れた場合は、結びます。
そして補修工程で、結び目を裏側に縫いこんで隠す、という職人さんがいるのです。

[/speech_bubble]

スーツにタバコ穴が空いた・・・という場合、かけつぎで補修したことのある方はいらっしゃるのではないだろうか?

穴に、近い糸を手で1本ずつ通す、繊細で神経を使う、気が遠くなるほど細かな作業だ。年々かけつぎの行える職人が減っている。それにも似た技術力を要する補修を行う職人が、スーツ生地の表側を美しくしているのだ。

ションヘル織機の表側へ。

写真右上は裏側から通ってきた経糸。

途中から緯糸が入って、見事ネイビー・ストライプのスーツ生地になっているのがわかる。

よく見ると、中央に緯糸が1本!

前の工程で出てきた筬だが、筬はこの斜めに通っている緯糸を押し込んでいく道具でもある。

実際に動かしていただいた。

写真左にシャトルがいたかと思うと、瞬く間に左へ。
綜絖が上下に開いた。
するとシャトルがその中を走る。
一瞬のできごとだ。

筬がリズミカルに動いてギュギュッと緯糸を押し込んでいく。

[speech_bubble type=”std” subtype=”a” icon=”7Q6A3743_result-860×573.jpg” name=”松はじめ” ]寄せては返す波のように、ションヘル織機は動きます。

葛利毛織の工場内にはボーリングのストライクを連発したかのような爽快な音がこだましていました。

[/speech_bubble]

ションヘル織機は、1分間に80本ほど緯糸を打ち込んでいく。
最新の織機なら、1分間に400本打ち込めるというから、1/5のスピードでションヘル織機は葛利毛織の中で稼働していたのだった。

(最新の織機なら、ウールではなく合繊なら1,000本以上打ち込める織機も存在する)

ここまで生産効率が悪いションヘル織機を使うメリットは一体どんなところなのだろう?

葛利毛織がションヘル織機にこだわり続ける理由

「織り上げた時の風合いが良くなります。スピードを落としてもじっくり丁寧に。

今、経糸に触ってもらうとわかるんですが、多少テンションがかかっていますよね。

高速織機だと、このテンションは糸が切れる寸前くらいまで張った状態で追っていくので、生地もペタッとしてしまう。」

シャトルを通すために、経糸が開く大きさを表現していただいた。

「この織機で織るとテンションもゆるく、さっきシャトルが通ったと思うんですけど、シャトルを通すために経糸がしっかり開いて、しっかり閉じて打ち込む。

経糸と緯糸が密に織り込まれて、テンションも緩く織ることができます。」

「高速織機だとシャトルを飛ばさないので、開き具合は1センチとか2センチなんです。」

なんでも高速化している現代社会。
しかしスピードだけを追って量をこなそうとすることは、羊毛という天然繊維をスーツ生地などの織物に仕上げていくときに、必ずしも最適な答えではない。

現に葛利毛織で大切に使われている、ションヘル織機。
高速織機の1/5のスピードでしか織れない。
古い機械だから、どの工程にも人の手を加えなければならない。

[speech_bubble type=”std” subtype=”a” icon=”7Q6A3743_result-860×573.jpg” name=”松はじめ” ]でも、張り詰めた状態で織られた平面的なスーツ生地に比べると、ションヘル織機で織られたスーツ生地にはほっこりした風合いの良い生地が織り上がりを感じることができるのです。

[/speech_bubble]

衝撃!スーツ生地のミミは・・・で作られていた

織られている生地の縁には、葛利毛織のブランド・DOMINX(ドミンクス)のネームが入っていた。
生地には耳と呼ばれるネームが入っているのをご存知の方は多いと思う。
テーラーではあまりやらないところが多いと思うが、この耳を敢えてパンツの裾の裏に靴づれとして付けているお店もある。

これは、これまでの工程とは別の機構を使っている。

これは一体どうやって織っているのか?

次回後編では、

・耳を織っていたのは?

・ストライプの作り方

・タッチパネルではできない80年前の織機

などをご紹介していきたい。

クイズの答え

Q:だいたいの生地は同じ幅。
なのに、使う経糸は6,000本の時もあれば、15,000本の時もある。
なぜそんなに経糸の数が変わってくるのだろう?

[speech_bubble type=”std” subtype=”a” icon=”7Q6A3743_result-860×573.jpg” name=”松はじめ” ]

A:生地の細さが関わっています。同じ幅の生地ですから、糸が細くなればたくさんの糸が必要になるのです。

ベーシックな生地なら経糸は6,000本ですが、細い糸になると倍以上使わなければ表現できない生地もあるということです。[/speech_bubble]

糸の太さ(番手)について

ということで、日本の物、見直してみようか?

さて、明日は何着よう?

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松 甫ライター:松 甫 詳しいプロフィールはこちら>> Twitter Facebook 表参道の看板のないオーダーサロン 株式会社ボットーネ CEO。
自身もヘッド・スーツコンシェルジュとしてフィッティングやコーディネートを実施。
クライアントは上場企業経営者、政治家、プロスポーツ選手の方をはじめ、述べ2,000人以上。

2018年4月28日
オーダースーツ | オーダースーツの生地
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