結婚式やフォーマルの服装に悩む前に知っておきたい!なぜファッションの丈が変わった?
私たちの着ているスーツを辿ると、必ず行き着くのがフロックコートである。
(写真はポロコート)
フロックコート、コートというからには長い丈をイメージするのだが、実は恥ずかしさを避け、・・・を隠すために長くしたということをご存知だっただろうか?
話はまず、長かったフロックコートを短くしたこんな面白く・驚きのエピソードからご紹介したい。
長い服を短く、について先日も燕尾服の尻尾(テイル)を切り落とした、メスジャケット誕生秘話をお伝えした。
このテイルを切ったという例は他にもあったのだ。
それが、フロックコートを短く切ったある出来事だ。
そして今日はフロック、フロックコートを中心に、時代とともに変化した着丈、しかしなぜ変化たのか?について出石尚三先生にお伺いしたお話をまとめている。
どうしてファッションは色々と変化するのだろう?
そのなかで、フォーマルの服を着る、例えば結婚式に出る場合はどのような服が良いのだろう?
それはなぜ着るのだろう?
その答えは全部過去の歴史が教えてくれるの、知っておけば応用問題が解けるようになるのだ。
まずはスペンサーというものを知っているだろうか。
カーディガンのように羽織る女性の服をイメージするのだが・・・
・
(右の腰くらいの非常に短い着丈の上着にあたるのが、スペンサー)
スペンサーの誕生エピソードも驚きだ。
ダイアナのひいひいひいひいおじいさん、アール・オブ・スペンサーはダイアナが出た位の家柄なのですが、第二代スペンサーが、暖炉に寄りかかって本を読んでいたら、こげくさいぞ!?と思ったら、フロックの裾が燃えていた!
燃えてしまった・・・
だが、第二代スペンサー卿は捨てなかった。
だけれど捨てることはないよ、裾が燃えたくらいで。
ここで切れるじゃないか!と(裾を切って)着ていたのです。
(上記図右で)普通のコートの上に重ねている、これがスペンサーなんです。
ということで、スペンサーという、暖炉で燃やしてしまったフロックコートの、こげた部分を切って生まれたものがあったのだった。
二代目スペンサー卿、きっと愛着もあるし服を大切にという思想だったのだ。
かくなる私もホワイトトラウザーズを誂えたのだけれど、あろうことか転んでしまった。
それで膝が破れたのだけれど、妻の提案に逆らって修理屋さんで修理をしたことがある。
破れを隠すのではなくて、いっその事ハーフパンツにしてみよう!と思ったのだけれど、なかなか高級な素材のハーフパンツで、夏のプライベートで気に入って着用しているのであった。
そんなことでも、影響力のある人が着ると違うのである。
こうして英国でスペンサーが生まれ、アメリカでメスジャケットが生まれる。
決して服の裾を切るという行為はおかしなことではないのだ。
こんな風に着丈の変化があった。
さて、少し遡ろう。
スペンサーはフロックコートを切った服。
そのフロックコート、もとはフロックと呼んでいた。
フロックとは、服という意味なのだ。
これを、フロック。
今はフロックコートといいます。
当時の紳士が昼間の普段着に着ていました。
しっかりとクラバットを結び、内側の現代でいうベストも非常に長い。
絵画などで見る、フロックコートに映える、金のバックルの靴だろうか。金のボタンも愛用された時代だ。
いわゆる薄毛対策のかつらではなく、貴族だぞ、という主張からかつらも定着している。
では、フロックの以前はどのようなものを着ていたのだろうか?
さらに遡るといよいよ面白いことがわかってくる。
・
じゃあ、フロックの前に何を着ていた?かというと、(仏)プールポワン<pourpoint>(英)ダブレット<doublet>現代語でいうと、キルティング。
ジョヴァンニ・バティスタ・モローニの、仕立屋。男前である。
イタリアの中流階級のファッションの一例。ガウチョパンツがトレンドとなって数年の2017年の日本、さらに進化すればこんなパンツも悪くない?
でもこのボトムの変化がフロックコートの着丈と因果関係があるのだという。
忍者の鎖帷子(くさりかたびら)って知ってる?
西洋にもあったのです、チーンウォーマーって。
金属の鎧は、硬い、冷たい。そこでその下に綿を入れて着た、それがもとのプールポワンです。
半ば下着ですね。体に直接着て、鎧を着ました。
それがだんだんと変わってきて、上着になるのです。
ということで、もともとは鎧の下に着ていたプールポワン。
それがだんだんと時代が変わって上に出てくるのだ。
そもそも、金属の簡単な鎧を着ていたところで、時代は進んで鉄砲が出てきたのだから撃たれたらどうするの?という時代の変化もあったよう。
こうして騎士も着れば、町民も着るようになったわけで、先ほどの絵画のようにハサミを持つ仕立屋も着ているのだ。
時代は太い、細い、長い、短いとトレンドが移り変わる。
タイトフィットというけれど、ルーズフィットともいう。
ただ大きい、ただ細いではなく、タイトにもルーズにもフィットがある、とはメンズウェア素材の基礎知識講座でおなじみの、素材博士 大西基之氏の名言であるが、まさにこの仕立屋は絶妙なバランスでフィットしている。
非常にタイトフィットで、ショートレングス(短い着丈)、袖付き、そのようなものが今の上着の代用になるのです、これが中世の服でした。 プールポワンの下(ボトム)はブルーマーのように膨らんでいます。
脚衣、レザーガーメントというのです。 お尻を隠してるという意識があった。
ところが(時代は進み)ブリーチーズという、脚にぴったりな脚衣になった、
当時、男がお尻をむき出しにするのは恥ずかしいじゃないか!と着丈が長くなったのです。
ボトムは極端にタイトになった。コートもウエストでエレガントにシェイプされた、非常にフィットしたフロックコート。
全体的に非常にフィットしている美しいスタイルだ。
私は貴族であるから、労働はしませんよ。と言わんばかりに手にはフィットしたグローブ。
あいにく右手は塞がっておりまして、物を拾うのは召使いなので、と語っているステッキ。
クラバッタはくるくふと結んで、最後はボウタイのように結んで終えている。まさに現代のボウタイのルーツである。
ちなみにパンツの縫い目を隠す目的から側章(そくしょう)が入っている。
現代の燕尾服やタキシードに入っている、側章である。ジャージにも、入っている?
さて、とにかくこのようになんと、フロックコートの着丈が長くなったそもそもの理由は、鎧の下に着ていたキルティングのボトム、ブルーマーのように広がったものがブリーチーズという、フィットした服になった。
それでお尻が露わになるのは恥ずかしい!ということで、着丈を長くしたわけだ。
洋服はなぜそのようになっているのか?を全て誕生理由があるのだ。
こうしてフロックコートは、さらに馬にまたがりやすく、手綱を握りやすくと改良され、モーニングコートとなっていく。
だけれど、やはりお尻の部分は長い。
フロックコートといっても、上着。
フロックというのは、服というもともとの意味です。
フロック、服を重ねるというようなこと。
それで、なんのために長かったのか、目的は1つ、男の尻を隠そう!
モーニングがなぜカッタウエイかというと、前は(開いて見えていても)良いけれどお尻は隠そう!
その時代その時代の、男の美学、
19世紀と21世紀の、恥ずかしさが違うのです。
何を恥ずかしさと取るか、常識が変われば服も変わる。
現代ではお尻が見えるような着丈の服が格好良い、と捉えるジャケット着用文化もあるのだが、まったく恥ずかしいことだったのだ。
恥ずかしさの話で、コドピースについての説明がある。
服飾史の視点から、コドピースというのがあって、トランクスの重ねが非常に稚拙だから、トランクホーズっていうので、汚いから隠そうっていうので、コドピース、、わざわざとんがりがでてるんです。
前縫い目を隠すため、みんな例外なく、中世のプールポワンの前開きは、トランズホーズ、コドピースといって、でっぱりが必ずついていました。
つまり、何を恥ずかしいと思うのか?
16世紀の紳士淑女ったちは、トランクホーズの前の縫い目がガタガタっとしているのが恥ずかしい、そこで盛り上がった建造物のようなものをつけることで恥ずかしくないとしたのです。
そのような建造物付きの服こそ恥ずかしいと思うのが21世紀に生息する私の考えだけれど、その感覚は間違っていないだろう。
でも、ラフォーレ原宿付近を歩くと、それはお腹であり、背であり、露出させるファッションの女性とすれ違うことは珍しくない。
すれ違わない日の方が珍しい夏の日本の光景を、とにかく肌を露出されないように、グローブ、ファン、パラソルを持ち歩いたこの時代の女性にはどう映るのだろうか。
ついでに言えば、クールビズはどうなのだろうか、、。
それはさておき、フロックに論点を戻そう。実際に着用されていたフロックだ。
これがフロック、実際にこういうものを着ていたのです。
この下に着ていたのがベストなのです。
近年、男女ファッションでロングカーディガンなるものが流行ったが、デザイナーの着想はこのベストかもしれない。
画像のように紳士はクラバットを巻き、手にはグローブを持っている。やはりくるくるのかつら、それから剣も必須アイテムだ。
それでは結婚式の服装はどうであったのだろう?
やはり式自体はお昼に教会で行うのだ。
1740年頃の上流階級の結婚式、右が牧師です。
海外の場合はキリスト信仰はわからないけれど、結婚式の署名自体は牧師立会いで教会で行い、両者がサインして、結婚式はそれで終わります。
結婚式=昼間の礼装であります。
そのあと、日本でいう披露宴、食事会。
それが夜にかかる場合には着替えます。
(画像が)上流階級の典型的なコートドレス。
18世紀、花嫁衣装は色々な色がありました。
この新郎はブルーベルベットでしょう。
18世紀、黒と決まっていなかったということがわかります。
ドレスも非常に肌の露出が少ない。いかに肌を見せることが恥ずかしく、品がないこととされていたかが伺える。グローブは食事の時には外したものの、サンドイッチを食べる時にはどうしたものか、と悩んだ時代だ。
そしてこの後に黒い服がフォーマルとされるのだろう。
まだ18世紀は、そのような統一はされていなかったようだ。
そして、フロックコートにも色々なタイプがあったようだ。
シングルのフロックももちろんありましたよ。
下に巻いているのがクラバット、三角帽を持っている。 強調しておきたいことは、18世紀のフロックコートというのは意外とバリエーションがあった、シングル・ダブル・衿あり、衿なし。 (出石先生、私の方へ歩み寄って)この通りといことはないけれど、昼間のフォーマルウエア用にフロックコートをリバイバルさせませんか?
私がなるほど、袖は3つボタンか、とまったく別の角度で資料を見ていたとき。
私が紳士の仕立ての仕事に関わっていると話していたので、出石先生は度々私の方を見た。
それで、素敵なフロックコートをデザインして提案してみたならばどうだろう?という視線を送って下さった。
現在はショートレングスにトレンドの軍配が上がっている感があるのだが、長い丈もフィットさせて仕立てると美しい。
そして意外とヒップ、ワタリ(モモの部分)の欠点をうまく隠してくれるのもフロックコートのような長い丈でもあるのだ。ファッションは繰り返す、新たな時代にマッチしたフロックコート姿の紳士たちが結婚式に行くという姿もなかなか荘厳ではないだろうか?
添付資料の紳士も、はやり金具付きの靴。ステンカラーコートを思わせる衿で、上から4つ目のボタンのみをかけている。もともとボタンは多かった。時代が進んで減っていった、ということも次の資料から見て取れる。
さて、1820年代後半は、、、
両脇にボックスプリーツ。
トレンチコート、チェスターの裏を見ると、ベントじゃあなくプリーツになっております、正式名称はバニアンプリーツといいます。
これもそうなっていますね、開いていない。
さて、色々と移り変わりがあるのだけれど、結局お伝えしたかったことは、どうしてその丈なの?
どうしてこの服を着るの?このデザンなのか?
そこに全て理由があるということなのだ。
もちろん全部知ったからどうなの?と言われてしまうかもしれないのだが、知っておけば応用問題も解けるのではないだろうか?
長い着丈、短い着丈、全部意味があるのだった。
ファッションは面白い。
ライター:松 甫 詳しいプロフィールはこちら>>
表参道の看板のないオーダーサロン 株式会社ボットーネ CEO。
自身もヘッド・スーツコンシェルジュとしてフィッティングやコーディネートを実施。
クライアントは上場企業経営者、政治家、プロスポーツ選手の方をはじめ、述べ2,000人以上。
2017年7月27日
フォーマル | オーダータキシードの歴史
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