真夏のエレガンス - 夏スーツ・夏ジャケットに宿る職人の矜持
この記事の目次
夏スーツに求められる本質的要件
機能美への探求

夏スーツにおいて最も重要なのは、見た目の涼しさと実際の快適性の両立です。
これは相反する要素のように思われがちですが、良質な生地と確かな仕立て技術があれば、決して不可能なことではありません。
我々が特に注目するのは、フレスコという生地です。
フレスコとは、2本の強撚糸を撚り合わせて作られた「2PLY(プライ)」、あるいは3本の糸で構成される「3PLY」を用いた織物で、その特徴は以下の通りです。
・ざっくりとした独特の風合い
・卓越した通気性と耐久性
・シワに対する高い抵抗力
・圧倒的なハリとコシ
しかし、フレスコの持つザクザクとしたハードな質感は、時として無骨すぎる印象を与えることがあります。
そこで私どもがお勧めするのが、ゼニアのBIELMONTEのような、フレスコの機能性を保ちながらも、よりエレガントな仕上がりを実現した生地です。
色彩への深い洞察
夏スーツの色選びは、単なる好みの問題ではありません。
それは着用者の品格と教養を物語る重要な要素なのです。
ブルーグレーは、この夏特に注目すべき色調です。
少しくすんだ色味が、サラサラとした生地の表面に良く馴染み、視覚的な涼しさと実際の通気性を両立させます。
極端に明るい色では品位に欠け、かといって暗すぎては季節感を損ないます。
この絶妙なバランスこそが、ブルーグレーの真価なのです。
・
・
・
夏ジャケットにおける美学
素材の叡智
夏のジャケットにおいて、リネンは避けて通れない素材です。
しかし、リネン100%では実用性に問題が生じることも少なくありません。
シワの問題はその最たるものでしょう。
そこで私どもが提案するのは、混紡素材の活用です。
例えば、リネン40%、ウール30%、シルク30%といった配合により、それぞれの素材が持つ欠点を相互に補完し合い、理想的な着心地を実現できるのです。
コットンについて誤解を解いておきましょう。
「夏はコットン」という固定観念がありますが、実際にはコットンの通気性は決して高くありません。
むしろ春秋の季節に適した素材と言えるでしょう。
(もちろん夏のコットンスーツも大好きですが、「コットンは涼しい!」と思っている方がおりますので、そうではないですよ、と)
色彩の品格
夏ジャケットの色選びにおいて重要なのは、海とビーチの色調を意識することです。
ベージュ、淡いブルー、明るめのブルーなど、自然界の涼しさを表現する色彩を選ぶことで、着用者の洗練された感性を演出できます。
ただし、極端すぎるとリゾート感が過度に表出してしまいます。
程よく街中に溶け込む程度のバランス感覚こそが、大人の男性に求められる美意識なのです。
・
・
・
仕立てにおける職人の技
軽量仕立ての哲学

夏スーツ・夏ジャケットにおいて、軽量な仕立ては必須の要件です。
しかし、単純に副資材を省けばよいというものではありません。
それは縫製技術の高さが要求される、まさに職人の腕の見せ所なのです。
襟があり、ボタンがあり、袖があれば「ジャケット」と名乗ることは容易です。
しかし、素材が省かれれば省かれるほど、残るのは純粋な技術力です。
形だけのアンコンジャケットではなく、身体を包み込むような立体的な仕上げを実現してこそ、真の夏スーツと呼べるのです。
ディテールへのこだわり
例えば黒蝶貝のボタンは、夏スーツの品格を決定づける重要な要素です。
一般的にボタンはホワイト、ブラック、ブラウンがありますが、私はブラックを最も推奨いたします。
純粋な黒ではなく、貝特有の微細なグレーがかった色調が、優雅で上品な印象を演出するからです。
ポケットにおいても、ビジネス用途を考慮すればフラップポケットが適切です。
過度なカジュアル要素は品位を損ないます。生地の持つ清涼感と、デザインの持つ誠実さのバランスこそが重要なのです。
・
・
・
着こなしの真髄
トーン・オン・トーンの妙技
ブルーグレーのスーツには、同系色でまとめたトーン・オン・トーンの配色が効果的です。
もちろんホワイトのシャツとの組み合わせも定番ですが、ブルーグレーという色味は意外に汎用性が高く、手持ちのネクタイやシャツとの相性も良好です。
軽装時代における品格の維持
現代は確かに軽装の時代です。
しかし、表参道・青山界隈を歩けば、依然として30代から40代の紳士たちがジャケットを着用している姿を数多く目にします。
これは単なる慣習ではなく、品のある服装にはジャケットが不可欠であるという、不変の真理の現れなのです。
黒のTシャツの上にジャケットを羽織るだけで、「おしゃれを頑張っている感」を出すことなく、自然な洗練を演出できる。
これこそが大人の男性に求められる着こなしの極意です。
・
・
・
おわりに - 伝統と革新の融合
夏スーツ・夏ジャケットは、快適性と品格の両立という永遠の課題に挑戦し続ける、紳士服の最前線です。
ドライなタッチに最初は違和感を覚えるかもしれませんが、一度その魅力を理解すれば、夏には欠かせない相棒となることでしょう。
真の紳士は、季節に屈服するのではなく、季節を味方につけるのです。
確かな品質の夏スーツ・夏ジャケットとともに、この厳しい日本の夏を、エレガントに乗り切っていただければと思います。
・
・
・
ライター:松 甫 詳しいプロフィールはこちら>>
表参道の看板のないオーダーサロン 株式会社ボットーネ CEO。
自身もヘッド・スーツコンシェルジュとしてフィッティングやコーディネートを実施。
クライアントは上場企業経営者、政治家、プロスポーツ選手の方をはじめ、述べ2,000人以上。
2025年7月3日
オーダースーツ ボットーネのブログ
おすすめ記事
オーダースーツのユニークな裏地をご紹介さて、その他ユニークな裏地はいろいろあるのでご紹介します。 スーツというと西洋が起源…
質問!ピークドラペルのスーツってどう思う?コンクールで着ても良いスーツオーダーサロン ボットーネがお届けするビジネススーツ&フォーマル通信。 本日はこんな…
英国紳士のスーツの着こなしにベストは必須なのか?イギリスから来たお二人に直撃英国紳士の服に対しての考え方は? まず見た目は重要だ . 英国紳士のスーツの着こなし…
徹底比較!イタリア生地とイギリス生地の違い英国生地とイタリア生地は何が違うか? スーツやジャケットの素材は、色々な国で織られ…
初公開!ハードボイルドの本当の語源オーダーサロン ボットーネの松 甫(まつ はじめ)です。 8月に入った。 小雨も手伝…
プレゼン スーツにコート 外資系企業の方からのご依頼とブレグジットとオーダーサロン ボットーネの松 甫(まつ はじめ)です。 米国に拠点を置く世界最大規…
スーツウォーク 2日目は大西基之先生はじめ中村達也さん、鴨志田康人さん、鈴木正文さん、吉國武さんらが登壇した講演スーツウォーク1日目の様子 スーツ好きが集う!台湾スーツウォークはアジア最大級のファ…
アリストン スーツ生地(ナポリ)の社内はこんな感じだナポリのマーチャント、ARISTON(アリストン)はここ数年メンズ雑誌でも取り上げら…
スニーカーはイギリスでは通じない?ファッション用語の面白さスニーカーにスーツを合わせる。 スポーツミックススタイルはここ数年のトレンドだ。 と…
なぜできる人は小銭入れのない長財布を使うのか?内ポケットとパンツのポケットの使い方松はじめです。 みなさんはどんな財布を使っているだろうか? できれば小銭入れとお札入…