糸の撚りと生地の表裏

「これが途中の段階です。」
と突然カバンからスライバーがでてきた。
先日ボットーネ表参道で開いた大西先生の講義、糸の定義の話の模様だ。
紡績は、短い繊維を撚ることで糸にするわけだ。
「スライバー、日本語だと篠(しの)といいますね。
だんだん機械で細くするわけです。
最終的に粗糸(そし)という粗い糸にします。」

「一番最初はトップっていう、
トップ染め、後染め、糸染めってのがあるわけですが」

「ここまでは、まだあまり撚りがかかってないですね。」
今度は鞄から巻いた糸がでてきた。

「こういうのを紡績っていうんです。
カネボウとか、あるじゃないですか、
あのボウは、紡績のボウで、 紡績っていうのは、ワタを糸にするってことです。
糸を撚ることで、
・均一性
・弾力=伸びたり縮んだり (撚ったことで、戻ろうとするから)
・丸み
・光沢
光沢はこれだけではないけど、 樹脂をかける場合もあるし。
・強さ
撚らなきゃちょっとした強さできれちゃいますからね。」

「経糸(たていと)ってのは力がかかります。」
2/60と書かれた糸が出てきた。
2は双糸(そうし)である。
これは60番双糸(そうし)、という風に読む。
双糸というのは、双だから、2つの糸を1本にしているのだ。
1本だと、巻き取るテンションに耐えられないから、 強度を保つ場合に、経糸はほぼ99%双糸となるのだそうだ。
「日本だと横糸も双糸が多いですね。
イタリアだと横糸は単糸(1本の糸)ってのが多い。
これで、ガチャンガチャンと糸を押さえていくんです。」

シャトルである。
これはボットーネが葛利毛織さんからいただいたものだが、
大西先生はこのシャトルを見て、それを瞬時に見抜いた。
「ションヘルかぁ、イギリスだとドブクロスね。
今はこんなのはほとんどないね。」
と低速織機の話に逸れ盛り上がる。
現代はスルザー製の高速織機なのだ。
「昔の速度が、ガチャン・ガチャン、だとすると、
スルザーは、チャチャチャチャチャッ。
10倍20倍の速度。
雑誌でションヘル(低速織機)で織ったからどうとか書いてあるけど、それは書き方だよね。
バルベラ(カルロ・バルベラ:イタリアの有名な生地の織元)なんかも、織機の速度を緩めれば、 同じことになるわけだからね。 」
こうして講義は重要な、撚りの方向に入る。
綾目だ。

この斜めに織られている織りを、綾織(あやおり)とかツイルという、 基本的に右上から、左下になっている方が表だ。
「これがS撚りです。
手でグルグルっとして撚るとこうなってきますよね。」

双糸はS撚りというが、単糸は逆に撚るため、Z撚りというのだ。
「S撚りの糸と、S撚りの糸を、Sに撚ると、ばらけますよね。
単糸は逆ですから、逆と逆をSによるから、落ち着いた糸になるわけです。」
文章で書くと実にわかりづらいのだが、
2本の髪の毛を束ねるイメージをしてほしい。
1本の髪の毛を、右につねって巻いていく、
もう1本の髪の毛も、同じように右につねって巻いてみる、
この合計2本の髪の毛を、1本に束ねてみるとすると、
右回し同士の髪を、右回しで1本にしようとすると・・・
ばらけるのだ。
そこで、逆回しで2本の髪の毛を1本の髪にすると、
非常に安定するわけだ。
「チノパンなんかは、綾が逆になってると思う。
だからこうなってると単糸だ、とわかるんです。
例えばこれ、コットンなんだけど、よく見ると、、、」

「コットンは切れにくいのですからね、補修がきかない。
ウールなら、裏から補修できます。
コットンと毛織物の決定的な違いは、織り上がって、
裏側で補修できるかできないかなのです。」
ウールなどは、裏にでてきている多少の問題は良しとされるのだ。
「・・ということで、綾目の出方ってのが今日のポイントです。
逆にもできるけど、生地としてバランス悪い。

「例えば、 これバルベラのフラノなんだけど、 ウール単糸を紡績して、そのまんま。
よく見ると綾目がこう。
実は糸が単糸なんですね。
フラノってのはもともと単糸織物。
紡毛(ぼうもう・ウールン:ツイードジャケットなどがそう)じゃなきゃフラノって呼ばなかったね。
でも、梳毛(そもう・ウーステッド:スーツ地に多い)フラノってのもスーツに使われていますね。
で、ハリスツイードですね。 」

「これは、経糸が単糸なのよ。
ツイードってことは番手が太いから、 単糸で使うことが多いよね。
ところが、これみると!!」
なんと、単糸!
「そう、単糸なんだけど、綾目が右から左に通ってる!????
単糸なのに・・・
これは、綾を敢えてSに織ってるの!
単糸は逆撚り(Z撚り)って言ったじゃん、
でも本格的スコッチ(スコットランド製生地の総称)はさ、ハンドメイド要素があるから、
本格的ツイードの紡績は、撚りながら糸にできるんだよね。
だから右撚りも、左撚りもできちゃう!」
大西先生も好きで追及していったところ、このような撚りに行きついたのだそうだ。
それから、著書を出版しようと思ったきっかけも撚りだ。
それはある店舗での出来事だ、
グレンチェックのスーツ生地が、なんと裏になってディスプレイされていたのだ。
大西先生は綾目などからそれが裏だと一瞬で見抜き、
店員にこう言った。
「これ、裏だから表にした方が良いよ」
すると、店員は言った。
「?はぁ、そうなんですか、どうしてですか??」
そう、わからないのである。
表か裏か、判別はスーツ生地の理論を知らなければ難しいのだ。
>>大西先生と初対面
>>第一回スーツ素材講座
>>第二回スーツ素材講座を開催
>>スーツ生地のトレンド変化(第二回スーツ素材講座より)
ライター:松 甫 詳しいプロフィールはこちら>>
表参道の看板のないオーダーサロン 株式会社ボットーネ CEO。
自身もヘッド・スーツコンシェルジュとしてフィッティングやコーディネートを実施。
クライアントは上場企業経営者、政治家、プロスポーツ選手の方をはじめ、述べ2,000人以上。
2016年8月8日
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