創立記念日 新宿のベッドで起業
3月6日は創立記念日である。
この日は、ボットーネという会社を作って、その時サロンがあった新宿で食事するのが恒例だ。
2009年の3月6日、私は、病院のベッドにいた。
ベッドの上で、印鑑と通帳を渡した。
私は、株式会社ボットーネというこの会社を設立したその3月6日、なんとあろうことか病院のベッドの上だった。
長野オリンピックのエンブレムデザイナーである篠塚氏は、ボットーネ社のロゴ・デザインを引き受けてくださり、そのロゴが仕上がった、と報告があった。
当時は新宿にサロンがあった。
ボットーネ新宿サロンでクライアントのフィッティングを終え、篠塚さんのオフィスへと向かう一同。
途中、私は、、、
新しい靴を履いてやや急ぎ気味で新宿駅西口のコーナーを小走りに移動したところ、
三菱UFJ銀行のATMコーナーに繋がる階段のコーナーでくるっと転んだ。
打ち所が悪かったのか?痛っ、立ち上がれなくなってしまう。
その他スタッフはそうとは知らず、そのまま置いて走って行ってしまった。
(皆急いでいたのだ)
私は、倒れるはずもない新宿駅西口から地下に降りる階段の踊り場で転び、
打ち所が悪く起き上がれない痛みに悶絶し、
《大丈夫ですか?》と声をかけていただいた周囲の心暖かい人に救われ、なんとか救急車を呼んでいただき、病院に担ぎ込まれた。
病院で、私がまっさきに告げたのは、すぐに行かなくてはなりません!
今日はデザイナーのプレゼンがあり、その後も洋服のフィッティングがあります!
と伝える。
すると、まっさきに告げられたのは、あなた、今日はもちろん、しばらく帰れませんから。という医師からの言葉。
右大腿骨骨折らしく、え?転んだだけなのに・・・
格好悪すぎる。
さらにこんな時にお見舞いに来た彼女からフラれ、
よりによってこんな時に、薄情な・・!と思ったが、そんな薄っぺらい人間関係を作っていたのか、と心から反省する良い機会になった。
今考えたら、それでその後、今の妻と出会うことになったわけで、結果論としては良かったということになる。
あの時、あの場所で、取り繕うことはできなかったし、自然な流れだっだのだ。
こんなとき、仲間は助けてくれた。
ボットーネという、何だか良くわからない小舟に、ちょっと乗った方も乗っているクルーも、
今考えても、ありがたいことだ。
ピンチでチームは団結した、そして、本当の人間関係が見えた。
自分のことを置いて、とにかく動いてくれた。
大丈夫ですか?と、見舞いに来て、
何かできることは?と言わずとも、何でもやりますよ、と目が語っていた。
その彼が、会社の印鑑を持って銀行口座を開設した。
印鑑と、通帳を渡し、司法書士とやりとりをして。
だからその時設定した、最初の会社の口座の暗証番号は私と彼だけが知っている。
でも、その彼は間違いなく不器用。
1:取り繕うとか、持ち上げるとか、そういうのはできない。大手の面接で落とされるタイプ
2:誰とでもパッと仲良くなれず、気の合う人と入れればいい、という、いわゆるいじめられっ子体質
3:積極的にどんどん話すタイプではない、だからこそ、周囲の言動・行動に敏感だし、繊細。
と、そんな3か条は、実は私そのもの。
私と同じく不器用で、本当に自分自身を見ているようだ。
結局無理言って、1週間で退院して、現場に戻った。
9年前のこの時、初めて人に任せること、見守ること、育てることの難しさを思い知った。
あと、結局そういう人と仕事したいよね。
純粋というか、何というか。
ふと思う。
こうしてお陰様でたくさんの方に支えられて今がある。
銀行口座を作り、見事株式会社デビューさせてくれた彼は、現在はフリーのスタイリストとなった。
毎日病院に来てくれ、ベッドの脇で毎日打ち合わせをしたもう一人の彼は、今はスマートフォンアプリの会社を起こして、渋谷にオフィスを構えるまでとなった。
あの頃は無我夢中、我武者羅だった。
展示会に参加させていただいたら全部で50着ほどのオーダーをいただき、設計、チェック、工房とのやりとりに追われながら、新宿の小さなサロンも1日あっという間に終わるくらいお客様が来店していたが、スタイリストと提携してご自宅に出張して採寸とフィッティングも行っていたため、平日の昼はお客様の社長室に行って生地を提案し、夜はお食事に誘っていただくことも少なくなかった。
文字通り365日休みはなく、先行投資も少なくなかったため、毎月資金繰りで頭を抱えながら、時間が空けば誘われたパーティーに行って名刺交換をして、移動時間はひたすら読書した。取り扱う生地を増やすために素材のエージェントを紹介してもらって会いに行き、次々と新しい生地にトライし、作品集を増やして、気がつくと仲間で居酒屋にいた。
今は色々なことが整った。
今改めて思うのは、当たり前のことを当たり前にできる会社は、すごい、ということだ。
当たり前だと思っていたのだが、創業当時は全部できていなかった。
伝えた納期をしっかり守る、プレスが行き届き着心地が良い服をお渡しする、イメージ通りと言っていただくフィッティングをする、何となくラルディーニのようなスーツが良いなと・・・という何となくを形にする、
そういう仕立て服をお届けする、そんな当たり前のこと。
仲間同士、礼儀正しくしっかり挨拶をする、見えないところも心を込めて掃除をする、何かが起きても対応できるように余裕を持ったスケジューリングをする、事前にしっかりと準備する、報連相を細かくキッチリやる、といった仕事として当たり前のこと。
本当にたくさんの方に支えられている。
表参道サロンに来てくださるクライアントの方々に支えられ、
チームやマネジメントのことで行き詰まったら、相談に乗って方向性を示してくださるナチュラルクリーンの中田代表、そして良い服を提供しようと全力で仕事するクルーたち。
まだまだではあるが、お陰様で会社としても9期。
ようやくなんとかスタートラインに乗ったと思う。
これからもこれまで以上にサービスと洋服に対して全身全霊で向かっていくつもりだ。
最近はクルー嶋田が率先して清掃し、
ライター:松 甫 詳しいプロフィールはこちら>>
表参道の看板のないオーダーサロン 株式会社ボットーネ CEO。
自身もヘッド・スーツコンシェルジュとしてフィッティングやコーディネートを実施。
クライアントは上場企業経営者、政治家、プロスポーツ選手の方をはじめ、述べ2,000人以上。
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