テーラーの学校 メンズファッション専門学校なき今、素材を学ぶ貴重な授業
原料があって、糸になって、織られる。
織るには組織ってものが必要だよ、ということで、(前回は)組織の話をしたよね。
例えばSさんが着ているそれ、それは平織りなんだけど、4本か5本(の糸)がまとまっている。
ホップサックっていうんだけど。
(大西先生の着ている)これはチェックだけど、Uさんのは平織りで出来ているけれど、これは綾織。
同じような柄でも平織や綾織を見分ける練習をしてみたら良いかな。
本日も始まった、2ヶ月に1回私たちが開催している、講義の日である。
講義は第一部、第二部にわかれている。
前半は素材。
講師として来ていただいている大西基之先生はメンズウエア素材の基礎知識の著者であられ、現在はない学校・メンズファッション専門学校の第1期生でもある。ダーバンではデザイナーを務め、テキスタイルからデザインするという当時としては斬新なことを開始したのも大西先生である。
1978年に独立、アパレル製品の企画やコンサルタント、紡績、毛織物メーカーのテキスタイルデザインを行う傍ら、大手生地マーチャントやアパレル商社でも素材の講義を行っている。
なんと本講義は同じ講義内容を凝縮し、さらに業界裏話を交えながらの講義である。
テーラーやアパレル販売に携わる人間が集まってきて着席すると、講師の大西基之先生の話しが始まった。
毎回脱線が目玉となっているこの講義、さて今回はどんな講義となるのだろう。
まず、今日は目付け。
一番大事なのは、自分が触ってみて、自分の手と目と感覚で、相手の要素に応じて提案する。
結果300gだったとか、これがシルクウールであるとか、それも大事なんだけど、お客様の要望、何を求めてるか?を感じる。感性の情報で提案してあげる。
目付けっていうのは作り手がお客様と話すときに、どういう風にいつ着られるか、重さってのは非常に重要なんだよ。
メンズウエア素材の基礎知識&セビロの哲学 講義より 講師:大西基之 先生
現代では空調が発達した。
そこで年中同じスーツを着ている、着たきり雀の男性を見かけることは少なくない。
せっかく日本には四季がある。
夏は麻素材のスーツを着れば季節感を表現できるし、冬ならばフランネルという起毛したウールも洒落ている。
スーツは防寒のために着るのだろうか?
もちろん寒い地域だったならばそういう側面もあるけれど、一歩会社に入ってしまえば年中快適に過ごせるようになった方は、寒さ対策のために服を着るのではないと思う。
-目付け270gの生地 Weight 270 gr/mt とある。-
そこで、目付けだ。
目付けとは生地の幅、だいたい150センチくらいに対して1mあたりどのくらいの重さがあるのか?ということだ。
だいたい150センチ、というのは、本当にだいたい。
プラスチック製品ではない生地は、154センチの生地もあれば、153センチだって存在する、だから重さだって生き物のようにブレる。
ウールでも、春に着るスーツと、秋に着るスーツ。
目付けを少し変えて季節感を楽しむ。
冬本番なら目付け380gくらいの厚手のウールや、目付け400gの紡毛のフランネルなんてどうだろう。
目付け500g越えのツイードだって面白い。
フランネルなんかは、160センチ以上で織ってる。
織り上がったものは湯通し。お湯につけて縮めていく縮絨(しゅくじゅう)をしていくことで、10センチくらい縮めて。
こうして綾が見えないものが出来上がっている。
メンズウエア素材の基礎知識&セビロの哲学 講義より 講師:大西基之 先生
目付けについては、生地にこう書いてあるのを見たことはないだろうか?
280g〜300g
〜ってなんだ、厳密じゃあないのか!というと、そういうことだ。
大西先生のおっしゃるように、フランネルは10センチ近く幅広いものを、お湯に通して縮めるのだ。
こうすることで安定するし、糸が絡み合って、綾織などの綾目が見えなくなる。
生地は工業製品のように捉えることがあるけれど、工芸製品のように考えた方が良いのではないかな。
日本はなんやかんやと規格を重視する。
その典型は、カシミアの混率だ。
何パーセントカシミアが入っているのか?それを明確にしなければならない。
だが、検査は非常にコストもかかる。
そこでウール100%と書く。
実際にはカシミアが入っているのに。
(テーラーの扱う生地にはカシミアの混率は書かれている。既製服の話し)
そうやってがんじがらめになってしまって、面白い服がない。と大西先生は言う。
だから既製服が売れない、自分で自分の首を締めたと。
車もそうだが、とにかくクレームが起きないように、と安全で安心な車なら日本車かもしれない。でも走っていて楽しいのは?服も同じようなことが起きている。
あと1ミリこうしてくれ、って。
熱を加えたりすることで伸びたり縮んだりするわけだから、ミリ単位のことなんて意味がないだけど。
メンズウエア素材の基礎知識&セビロの哲学 講義より 講師:大西基之 先生
こうして講義中盤、様々な羊毛や獣毛の原毛が登場。
写真はキッドモヘア。
後半は、大西先生の師匠にあたる星野醍醐郎先生のセビロの哲学という書籍と、大西先生が感じた着こなしに関しての理論を綴った、出版しなかったという幻の著書 セビロの消えた日の原稿を元に、着こなしについての講義だ。
セビロの哲学のなかで、セビロをはじめ、シャツ、ネクタイ、靴など、無関心か趣味しかない。と述べられている。
靴を休ませることもなく、キーパーに入れることもなく保管しては、脱ぎ捨てたスーツと同じ!と大西先生も靴について警鐘を鳴らす。
お祭りに行くために着物をチェックしていたら、当たり前なんだけど畳んでしまってある。
この感覚なんだよね、洋服もね。
決定的に違うのは、和服ってのは立体じゃあない。
平面なのを立体の人間がきているから、胸のボリュームもへちまもないじゃない。
僕たちが関わっている服ってのは、胸のボリュームどうするとか、なっていったわけでしょう。
靴なんかもそうなんだけど、ゲタなんかキーパーないもんね。
立体性をいかに保つか?が重要なんだけど。
価格の問題もあるんだろうね。
ジョンロブ(英国の高級靴)履いてる人が、毎日履いて脱ぎ捨てて、ということはないよね。
価格が全てではないけど、ある程度の価格じゃないと大事にしようと思わない。
メンズウエア素材の基礎知識&セビロの哲学 講義より 講師:大西基之 先生
靴は、脱いだらキーパーを入れる。
履かない靴も時々は風に当てて、メンテナンスをする。
しっかりケアしながら履けば驚くくらい長持ちするのだ。
電車に乗っているとなかなかそういった靴にお目にかかることがないというのが、日本の現状だ。
だけど、こういったことを今から50年ほど前に書かれた本《セビロの哲学》でも述べられているのだ。
私たちは当たり前のようにスーツを着て仕事に行く。
それは本当にスーツなのだろうか?
加工して洗えるようにして、シワにならない加工をした、一応袖が2個ついているスーツらしき黒い何かを羽織る。
黒いナイロンのバッグ、冬はトレンチっぽい黒いポリエステルのヴェルト付きコート。
極め付けはくたびれた靴。
せっかく自由に洋服を着ることが許される現代日本なのだ。
仕事着だってもっと自己表現してみてはどうだろうか。
講義の内容については改めてまとめてみたい。
大西先生と。
大西先生のブーツが秀逸。
大西先生ありがとうございました。
ということで、靴はしっかりとシューキーパーに入れて休ませ、スーツも適切なハンガーに掛けようか。
さて、明日は何着よう?
過去の講義のようす。
大西先生の書籍。
アパレル、ファッション関係に携わっている方なら持っておきたい一冊。
正しい商品知識がついてお客様からの信頼が上がる。
企画、バイヤーなどの方は再確認という意味でも持っておいて損がないバイブル。
大西基之先生の師匠の星野醍醐郎 先生、絶版著書がこちら
セビロの哲学―男性のおしゃれ (1968年)
ライター:松 甫 詳しいプロフィールはこちら>>
表参道の看板のないオーダーサロン 株式会社ボットーネ CEO。
自身もヘッド・スーツコンシェルジュとしてフィッティングやコーディネートを実施。
クライアントは上場企業経営者、政治家、プロスポーツ選手の方をはじめ、述べ2,000人以上。
2017年10月3日
明日は何着よう?松はじめのスーツの着こなし術 | イベント
タグ:スーツ, 講義, 大西基之先生, 生地
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