理由があった!なぜモーニングコートは朝着るようになったのか?
午前中の正装といえばモーニング・コート。
内閣の組閣や校長先生、それから新郎・新婦のお父様が着用する服というと、モーニングが浮かんでくる。
あのチャップリンが着ていたのもモーニングだったのをご存知だろうか?
ところで、モーニング・コートという名前がついているのはやはりもともとモーニング、朝用の服なのだ。
一体なぜ朝の服になったのだろう?
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現代では、礼装の中でも最も上位となる、正礼装。
正礼装といっても朝と夜では着る服やアイテムが異なるのだが、朝や日中の服。
まさに朝着るからモーニングと言われると、なるほど!という感じがする服である。
黒いコートは、後ろへ向かってカーブしていて、
ストライプのトラウザーズ(パンツ)はコールパンツと呼ぶ。
ウエストコート(ベスト)はライトグレーなど。
この服にはモーニングタイというストライプタイが良く合う。
着る場面がない?
いやいや、勲章を受賞する時があるかもしれない。
それから、娘さんの式はやっぱりモーニング?
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もともとは、モーニングコートができる前は、フロックコートという丈の長い服を着ていた。
もっと厳密にいえば、フロックは服という意味で、呼び名はフロック。
フロントカットはスクエアの、いわゆるコート。
ところが、その後こんな服が登場したという。
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銀座ファッションアカデミア(講義)より講師:出石尚三 先生
ニューマーケットフロックという服が出てくるのだけど、その名前になっているニューマーケット競馬場は、ここにある。
ニューマーケットというと新しいようなイメージなのだが、実はニューマーケットとは競馬場で、それももっとも古い競馬場だ。
もっとも古い競馬場は1660年に作られた。
ニューマーケット競馬場は、1660年に作られた競馬場です。
一番格式が高いのはアスコット競馬場ですね、こちらは1711年のはじまり。
1711年、アスコットヒース(地名)、そこをみたアン女王が、ここで競馬したらいいのでは?と。
英国王の個人の持ち物で、英国王室の物ではありません。
アスコット競馬に行く場合は、昼間の正装でいきます。
座る場所は全部決まっていて、一般人が入れない貴賓室などは、モーニング(コート)。
ニューマーケットではそこまでのことは言わないのですが、歴史的には古い。
アスコットヒース
ニューマーケット競馬場は古い競馬場。
話は逸れたが同じ英国で有名な競馬場といえば、アスコット競馬場。
アスコットタイを聞いたことはないだろうか?
良家の不良少年が、ちょっと格好つけてアスコット競馬場に行く時に巻いたのがアスコット・クラバッタ(アスコット・タイ)。
当時モダンな、若者の流行だ。
ということで、ニューマーケット競馬場という、歴史的に古い競馬場の名前であるニューマーケット。
英国では、だいたいニューマーケットという言葉がつくと、馬に関係することだとわかるのだとか。
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1750年になって、前裾をカットしました。
カットの方法が今と違いますね?
1800年代初頭。
だいたいイメージがつかめるじゃないですか。
ニューマーケットという言葉はかなり長くつかわれます。
ニューマーケットといえば、イギリスでは何か馬関係だね?となります。
ファッション用語として、ニューマーケットフロックというと、乗馬用のフロックコートです。
いやー大胆にカットしたものだ・・・。
出石尚三先生曰く、調べてもこれよりも以前に裾をカットしたような服はないのだそうだ。
つまり、これがモーニング・コートの原型と考えて間違いなさそう。
だがまだゆるやかに後ろへ流れるモーニング・コートとは形も違うし、そもそもモーニングコートという名前ではない。
夜着るのは燕尾服だけど、朝着るのがニューマーケットというところには結びつかない。
一体どうして朝着るようになったのだろう?
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ところで、ニューマーケットフロックを見たフランス人は、新たな服をデザインした。
ちょっとした流行になる。
1799年、フランスから(イギリスに)逆輸入されたファッド(流行)であります。
ジャンヌブリという人がこういう服をつくった、それが1799年になって、イギリスに逆輸入された。
一つは盛り上がった肩、申し訳程度のテイル。
非常に省略というか、短いテイル。
これがジャンヌブリの特徴です。
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フランス人は、イギリスの服を見て最初びっくりしたそうだ。
何がびっくりしたかというと、そもそも服の裾を切るなどという発想がなかった。
そもそも、フランスの貴族は主に馬車で移動する。
だから馬車にはとことんお金をかけた。
それこそ、タイヤモンド付き馬車もあったくらい。
けれど、イギリス人は、馬に乗る。
貴族は乗馬をする。
馬は、姿勢正しくしていないと言うことを聞かず、時には人間をふるい落としてしまう。
そのくらい人間の態度を見定めているのだそうだ。
だから馬に乗るときは、私が主人!と堂々と姿勢正しくしていないといけない。
そういうところから、姿勢正しくすることを子供に教えるのだ。
姿勢正しくしているから、服も美しい。
さて、どうしてモーニングは朝着るのだろう?
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次に、馬に乗ったことがある方はわかると思うが、結構な運動量だ。
朝食後、ジムで身体を鍛えるかのごとく、軽いスポーツなのだ。
ちょっと一回りしてくるよ、と。
そして、現代であればランボルギーニのようなスポーツカーに憧れる男性は少なくないかと思うが、当時ランボルギーニはない。いい車に乗りたい!ならぬ、いい馬に乗りたい!のだ。
ということで、基本的にイギリスでは馬に乗る。
馬に乗るから、フロックコートの裾を乗馬用に改造してしまったのだ。
これがニューマーケット・フロックだ。
そしてそれに影響を受け、フランスで一瞬だがジャンドブリが作った服流行った。
それが?
少し誇張もあるかとは思うが、なかなか盛り上がった肩。
テイルも短い。
モーニングコートという言い方はまだありませんでした。
ニューマーケットフロックというのは嫌だから、
パドシュ、上っ張り(衣服の上から着る外衣)のような軽い、ルダンゴット(乗馬服)。
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と、羽織り乗馬服のような意味の、パドシュ・ルダンゴットはできあがった。pardessusはオーバーコートというか、服の上から羽織る服というか。
redingote とは英語のライディングコートが鈍ってルダンゴットになったというのは服飾業界では有名な話だけれど、つまりやはり乗馬の服ということだ。
18世紀は車がないから馬なんです。毎日馬に乗ったのです。
ですから乗馬服が非常に発達したのです。
簡単にいうと馬に乗りやすい服なのです。
ところがフランスの貴族は馬車。
馬車にはもの凄く凝ったのです。
馬車の車体にダイヤモンドを埋めるとか。
イギリス人はそういうこともあったけど、実際に自分で乗った。
朝起きるでしょう、
朝食を食べ、乗馬服に着替えて、ちょっとその辺を走る。
馬に乗るってのは結構な運動。そういうことをするのが男らしいことだった。
朝飯をすませ、パカパカっとひと回りしてくるんだ、と。
その時の服装がライディングコート。
信号が青になる。
グゥッとアクセルを踏み込む。
背中にギュっと吸い付くようなGがかかったかと思うと、びゅんびゅん周囲の景色が流れる。
ランボルギーニは胸に響くエンジン音とともに走り出す。
それが車か馬か。乗り物は変わってもオトコの心は変わらない。
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こうしてどんどん馬に乗りやすくしていった。
ここまで追ってきたように、美しさではなくて、機能的に追求していったのだ。
でもまだ都会的な服ではなくて、やはり馬に乗る服。
色もブラウンやグリーンのカントリーテイストであった説明図版がある。
だいたいにおいて、グリーン、ブラウン、そういうのの色、馬に乗るための、郊外を走らせるためのものでした。
都会で着る黒、グレーはなくはないが少ない。
カントリーカラー。
1843年のドレス・ライディング・コート。
姿勢正しい紳士、うまくフロントカットが馬に跨った時に両サイドに垂れているが、美しい。
フィットしたコートは前ボタンは留めず、ブリーチズもフィットしている。
フィットしていなければ長時間の乗馬には不向きなのだ。
さて、いよいよ本題のなぜモーニングを朝着るのか?だ。
ついに1870年代にモーニング・コートという呼び名になった。
それは、まさに朝着るからだ。
で、なぜ朝着るのか?
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<乗馬服の女 エドゥアール・マネ 1882年>
フィットしたコートを羽織っている。なかなか洒落ている。
名前の変遷があって、1870年代になりまして、モーニングコートというなが一般的になりました。
カントリーから、シティ。
乗馬服から都会の服へゆっくりとかわってきた軌跡でもあるわけです。
1870年代のモーニングコートの直接的な意味は、自家用の馬に乗って、人の家を訪ねる一般的な服装に、ちょうど良い。
フロックコートほど固くはなく、ラウンジコートほど砕けていない。
それで、1870年代に流行るのです。
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ということで、M65(アメリカ軍のフィールドジャケット)で都会を歩く現代のように、乗馬服だった服も次第におしゃれ訪問着になった。
フロックコートの持っている公式な式典というイメージで人の家に行くのは、現代なら真夏でも客先へスリーピーススーツを着込んで、ハットとステッキをお共に参上!という感じかもしれない。
かといって、ジャージではさすがに緩すぎるではないか。
じゃあ、ジャケパンは?
というような位置になったのが、乗馬服だった。
その乗馬服を着て人の家を訪ねる。
人に家に行くのは、基本朝が良い!という常識があった。
だから、モーニング・コートは朝着るのだ。
その後、2時、3時あたりに訪ねる文化に変わったのだけど、不思議なものでモーニングコートの呼び名は変わらなかったという。
確かにフォーティーンコート、サーティーンコートというのは細かいし、アフタヌーンコートとはならなかったようだ。モーニングはモーニング。
ということで、乗馬の服は訪問着になり、訪問時間は朝だったからモーニングコート。
モーニングコートと呼ばれるようになったのは、1870年代以降。
またシューティング・コートと呼ばれた時代がありました。
今現在、アメリカ英語では、モーニングとはいいません、カッタウェイコート。
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1:もとはフロックコート。
2:それを馬用に改造したのがニューマーケットフロック。
3:フランス人がそれを見て、パドシュルダンゴットという服を作った。
4:そうしてずっとライディングコート、乗馬用の服だったのだが、都会のおしゃれな着こなしに取り入れられた。
一般の人もおしゃれな乗馬服を着て人の家に行く。
結論:人の家に行くのは、基本は朝が良い。
朝着るコートということからモーニングコートという名前になった。
ということで、朝お客さんのところに行くときはモーニングコートで行ってそんな話で盛り上がってみようか。
さて、明日は何着よう?
ライター:松 甫 詳しいプロフィールはこちら>>
表参道の看板のないオーダーサロン 株式会社ボットーネ CEO。
自身もヘッド・スーツコンシェルジュとしてフィッティングやコーディネートを実施。
クライアントは上場企業経営者、政治家、プロスポーツ選手の方をはじめ、述べ2,000人以上。
2017年9月11日
フォーマル | オーダータキシードの歴史
タグ:モーニングコート, フォーマル, 服飾史
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