正しいサイズ選びで別人に変身!スーツ・ジャケット・パンツの完全サイジング術
皆さん、こんにちは。松はじめです。
メンズファッションの世界で最も重要でありながら、見落とされがちなポイントがあります。それは「サイズ感」です。今日は、スーツ、ジャケット、パンツ、そしてベストの正しいサイズ選びについて、私の経験を交えながら詳しくお話しします。
なぜサイズ感が最重要なのか
東京・表参道で10年以上、洋服の仕立ての仕事に携わってきた私が断言します。洋服のサイズが合っているか合っていないかで、着た時の印象は劇的に変わります。
生地がどんなに良くても、デザインが優れていても、有名ブランドの商品でも、サイズが合っていなければ台無しです。逆に、生地が安くてもサイズが合っていれば、それなりに見えると言い切れます。それほど、サイジングは重要なのです。
既製服とオーダーを比較した時、オーダーの方が美しく見えるのは、まさにサイズが合っているからなのです。
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流行に惑わされない「フィット」の本質
カジュアルでルーズな服が流行ったり、ピタッとタイトな服が流行ったり、時代によって様々なトレンドがあります。しかし、注目すべきは「ルーズフィット」「タイトフィット」というように、どちらにも「フィット」という言葉が付くことです。
つまり、ただ大きいだけ、ただ小さいだけではなく、身体に合っているということが前提なのです。今日お話しするフィット感を覚えるだけで、あなたはより美しく、かっこよく見えるスーツを選び、着こなすことができるようになります。
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ジャケットの正しいサイズ選び
1. バスト(胸囲)が全ての起点
多くの方が「ウエスト」や「着丈」を重視しがちですが、実は全ての洋服の起点となるのがバストなんです。パターンを引く場合も、バストを中心にアームホールを考えていきます。
バストの適正サイズ=実寸+10〜15cm
- 10cmだとややタイト
- 15cmだとややゆったり
この数値が分からない場合は、内ポケットに手を入れる所作が問題なく行えるかどうかで判断してください。これが、ちゃんとフィットしている証拠です。
2. ウエストのチェックポイント
シングルのジャケットの場合、フィットが強すぎると斜めにシワが寄ってしまいます。これが出たら要注意です。
私が推奨するウエストのゆとり:
- 基本:ゲンコツ1個入るくらい
- よりスタイリッシュに:手のひらが入るくらい
3. 肩幅の見極め方
肩は最も複雑な部分です。実際の肩幅とスーツの肩幅はイコールではありません。なで肩の方、怒り肩の方、それぞれに合わせた調整が必要です。
避けるべき状態:
- タイトすぎて肩パッドが浮いている
- 肩からアームホールにかけてシワが寄っている
最も美しいのは、肩線からすっと袖に落ちている状態です。ここは専門家と相談しながら決めることをおすすめします。
4. 着丈の黄金比
以前、イタリア人の方が「日本人はなんで芸者が多いんだ」と言ったことがあります。これは、着丈が短すぎるジャケットを着ている人が多いという指摘でした。
理想的な着丈: お尻の8割が隠れている状態。完全に隠れると野暮ったく、見えすぎるとエレガントさに欠けます。
5. 袖丈の基本ルール
手を自然に下ろした時、シャツがジャケットより1〜1.5cm出ているのが理想的です。これは中世の貴族の服装に由来する伝統的なルールです。
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パンツの正しいサイズ選び
1. ヒップが最重要ポイント
ジャケットがバストで決まるように、パンツはヒップで決まります。ヒップは縫い代も少なく、直しが困難な部分です。
チェック方法: 後ろのポケットに手を入れても問題ないくらいの自然なゆとりがあること。座っても窮屈感がないことが重要です。
2. ウエストの適正ゆとり
手のひらがすっと入るくらいの余裕があって良いと思います。ベルトやサスペンダーで微調整できますし、座ると多少出る傾向にあるからです。
3. 美しいシルエットを作る三つのポイント
パンツのラインを決定するのは以下の三箇所です:
1. ワタリ(太もも部分): ヒップがタイトだと引っ張られて細くなってしまいます。手でつまめるくらいのゆとりを持たせてください。
2. 膝: どんなに細くても22cm以上を推奨します。
3. 裾: 最も細くても18.5cm以上。クラシックなら21〜22cm程度が理想的です。
膝と裾を細くしすぎると、座った時に突っ張ったり、立った時に裾が上がってしまったりします。
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ベストの正しいサイズ選び
1. きつすぎは絶対NG
きつすぎると座った時にボタン一つ一つからシワが寄り、ハムのような状態になってしまいます。これは最も美しくないベストの状態です。
2. 理想的なフィット感
ネクタイを軽く引っ張って、ふわっとした状態をキープできるようなフィット感。きつくないけれど、適度な押さえが利いている状態を目指してください。
3. 丈の長さ
前丈も後ろ丈も、ベルトのラインを隠せる長さが基本です。パンツの股上が深いほどベストの丈は短くでき、浅いほど長くする必要があります。
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サイズ選びの実践的アドバイス
オーダー時の注意点
スーツを作る際は、必ずシャツを持参してください。どんなシャツに合わせるかによって、ジャケットの袖の長さも変わります。私は「シャツを作ってからスーツを作る」くらいの順序でも良いと思っています。
既製品での直しの限界
着丈の直しは最も困難です。直すとポケットの位置が変わってしまい、バランスが崩れます。技術の高い工房なら上から詰めてポケット位置を維持する方法もありますが、できるだけ最初から合うものを選ぶことが重要です。
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スーツが軽く感じる理由とは
余談になりますが、肩にスーツが正しく乗った時、非常に軽く感じることがあります。これは何故でしょうか?
実は、私が今着ているジャケットも、1メートルあたり200g以上の重さがあります。2メートル使って作っているので400g、さらに内側の副資材や肩パッドなども加わると、かなりの重量になります。
リュックサックや神輿を考えてみてください。肩で重いものを支えることは、人間の身体の構造上、実は得意なことなのです。正しくフィットしたスーツは、この人間の身体の特性を活かし、重量を効率的に分散させるため、軽く感じるのです。
これが、西洋の服が軽く感じる理由でもあります。単に生地が軽いからではなく、身体に正しくフィットしているからなのです。
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体型別のサイズ選びのコツ
筋肉質の方への特別アドバイス
鍛えている方によく見られるのが、腕の筋肉が発達して肩からその下にかけてのラインが強調されすぎてしまうことです。この場合は、腕が綺麗に落ちるように肩幅を腕のラインまで持ってきた方が、全体的なバランスが美しく仕上がります。
なで肩・怒り肩の方への配慮
肩の形状は人それぞれです。なで肩の方は肩パッドで威厳を出し男性らしさをアップさせる作り方が効果的です。一方、最近のトレンドでは肩パッドを入れず、身体のラインをそのまま活かすシャツ袖のようなジャケットもあります。
このようなジャケットでは、肩線が身体の内側に入り込んでいるものもあり、どう見せたいかによって選択が変わってきます。
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既製品 vs オーダー:どちらを選ぶべきか
既製品選びのポイント
既製品を選ぶ際は、直しやすい部分と直しにくい部分を理解することが重要です。
直しやすい部分:ウエスト、袖丈、パンツの丈
直しにくい部分:肩幅、着丈、ヒップ
特に、着丈の直しは技術的に困難で、直すとポケットの位置が変わってしまいバランスが崩れがちです。心斎橋リフォームさんのような技術の高い工房では、上から詰めてポケット位置を維持する高度な技術もありますが、基本的には最初から合うものを選ぶことが賢明です。
オーダーの真価
私がオーダーサロンを運営しているから言うわけではありませんが、特にベストに関してはオーダーをおすすめします。ベストは最も身体に密着するアイテムであり、既製品では理想的なフィット感を得るのが困難だからです。
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サイズ感を極める上級テクニック
三つ揃いの美学
スリーピーススーツを着る際は、各アイテムの関係性を理解することが重要です。パンツの股上が深いクラシックなスタイルでは、ベストの丈を短くできます。逆に、現代的な浅い股上のパンツに合わせる場合は、ベストの前丈を長くする必要があり、それに伴ってシルエットも変わってきます。
季節とサイズ感の関係
同じスーツでも、季節によって下に着るものが変わります。夏場は薄手のシャツ一枚、冬場は厚手のシャツにベストを重ねることもあります。このような着方の変化も考慮してサイズを選ぶことで、年間を通して美しく着こなすことができます。
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最後に:サイズ感で人生が変わる
10年以上の仕立ての経験から断言できることがあります。正しいサイズの服を身につけることで、その人の印象は劇的に変わります。それは単に見た目の問題だけでなく、着ている本人の気持ちや立ち振る舞いにも大きく影響します。
サイズが合った服を着ることで得られるもの:
- 自信に満ちた立ち振る舞い
- 周囲からの信頼感
- 着心地の良さからくる快適さ
- 長時間着用しても疲れにくい身体への負担軽減
正しいサイズ選びは、まさに「別人に見える」ほどの効果があります。ダボっとしたものやパツパツのものを着ていると、それだけで印象が悪くなってしまいます。
重要ポイントの再確認:
- ジャケット: バスト→ウエスト→肩→着丈→袖丈の順でチェック
- パンツ: ヒップ→ワタリ・膝・裾のバランス→ウエスト
- ベスト: 座ってもシワが出ないフィット感と適切な丈
これらのポイントを押さえれば、どんな服でも格段に美しく着こなすことができます。
今回お話ししたサイズ感を意識して、ぜひあなたも「別人級」の変身を体験してみてください。正しいサイズ選びこそが、真のメンズファッションの第一歩なのです。
服は人を作り、人は服によって作られます。あなたの人生をより豊かにするために、まずは正しいサイズ選びから始めてみませんか?
ライター:松 甫 詳しいプロフィールはこちら>>
表参道の看板のないオーダーサロン 株式会社ボットーネ CEO。
自身もヘッド・スーツコンシェルジュとしてフィッティングやコーディネートを実施。
クライアントは上場企業経営者、政治家、プロスポーツ選手の方をはじめ、述べ2,000人以上。
2025年6月12日
オーダースーツ ボットーネのブログ | 明日は何着よう?松はじめのスーツの着こなし術
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