定休日とプールサイドと
白いパンツは、一体何本持っているのだろうか、と思うほど持っていて、
きっと12本目くらいになるのが、この葛利毛織のウール・フランネルだ。
奇をてらわないノータック・パンツで、低速織機で織ったほっこりした風合いが良い。
定休日は1日は家族との時間を過ごさせてもらっていて、
もう1日は自分と向き合う時間にしている。
創業当時はこうはいかなかった。
1年24時間体制、と言っても過言ではない。
「はい、もしもし!」いつかかってくるかわからない、と、
NEC製のパカッと開くガラケー(ガラパゴス携帯)は常に右ヒップポケットに入れて、
バイブレーションがブルッと鳴れば、0.2秒で右手は携帯を取り出して、親指の反り返る力だけでパカッと画面を開き、
電話に出る。
ゴルフをしていようが、友人とバーにいようが、
何かあったら、と心配だった。
今は、木曜の定休日は欠かせない、なぜならば、バッファーとリカバリーの1日なのだ。
1週間どうであったか、
次の1週間はどうあるべきか?
ここで自身のブレを修正する。
もし遅れているプロジェクトがあれば、ここで取り戻す。
そして晴れていたから靴を磨き、
洋服にスチームをあて、
整理整頓する。
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35歳になった春、彼は自分が既に人生の折りかえし点を曲がってしまったことを確認した。
いや、これは正確な表現ではない。正確に言うなら、35歳の春にして彼は人生の折りかえし点を曲がろうと決心した、ということになる。
もちろん自分の人生が何年つづくかなんて、誰にもわかるわけはない。もし78歳まで生きるとすれば、彼の人生の折りかえし点は39ということになるし、39になるまでにはまだ四年の余裕がある。それに日本人男性の平均寿命と彼自身の健康状態をかさねあわせて考えれば、78年の寿命はとくに楽天的な仮説というわけでもなかった。
それでも彼は35歳の誕生日を自分の人生の折りかえし点と定めることに一片の迷いも持たなかった。そうしようと思えば死を少しずつ遠方にずらしていくことはできる。しかしそんなことをつづけていたら俺はおそらく明確な人生の折りかえし点を見失ってしまうに違いない。妥当と思われる寿命が78が80になり、80が82になり、82が84になる。そんな具合に人生は一寸刻みに引き伸ばされていく。そしてある日、人は自分がもう50歳になっていることに気づくのだ。50という歳は折りかえし点としては遅すぎる。百まで生きた人間がいったい何人いるというのだ? 人はそのようにして、知らず知らずのうちに人生の折りかえし点を失っていくのだ。彼はそう思った。
村上春樹 プールサイド より
ライター:松 甫 詳しいプロフィールはこちら>>
表参道の看板のないオーダーサロン 株式会社ボットーネ CEO。
自身もヘッド・スーツコンシェルジュとしてフィッティングやコーディネートを実施。
クライアントは上場企業経営者、政治家、プロスポーツ選手の方をはじめ、述べ2,000人以上。
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