なぜスーツの袖からシャツが出ていないといけないのか?雑誌が教えてくれない理由に迫る
松はじめです。
どの雑誌にも、本にも、スーツの袖からはシャツが1センチか、1.5センチほど出ているのが理想です。と書かれていませんか?
ジャケットの首からも、少しシャツが覗きますよね。
実は、明確な理由があったのです。
今日はシャツの袖がスーツのジャケットから出ていなくてはならない理由をご説明します。
なぜスーツの袖から、シャツの袖を出すというルールが存在しているのか?
まず、シャツというのは素材はだいたいコットンですね。
もともとはシャツ素材はリネンだった。
それに対して、スーツといえばだいたいの素材がウールではないでしょうか?
ウールは洗えない
話は19世紀に遡ります。
当時は現代のようにドライクリーニングは存在しなかったのです。
スーツを自分でじゃぶじゃぶと水洗いしよう!と思う方は少ないと思います。
洗うことはできても、その後プレスをしてしっかり仕上げなければならないですね。
水洗いをすれば縮んでしまうという問題もありますし。
シャツは洗える
シャツは洗える。
今でもシャツは自宅で水洗いする、という方は少なくないのではないと思います。
19世紀もシャツは洗っていました。
洗わせていた、という方が正しいのですが。
半年に1度、たくさんのシャツが届くと、船に乗ってじゃぶじゃぶと洗うのです、下流階級の女性たちが・・。これはファッション史家の長澤均さんが洗濯女とおっしゃっていました。
シャツは今とはちょっと違い、糊(のり)をふんだんに使って仕上げた。
リネンのシャツがテカテカするほどに糊を使って、バリバリに固いシャツが仕上がるわけです。
それは、シャツ生地を汚れから守るため、糊に汚れをつけるため。
あまりにも糊の効いたシャツは、水でじゃぶじゃぶ洗っても落ちない。
落ちないので、釜で茹でて糊と一緒に汚れを落としていたというのです。
余談だが、これがハードボイルドという言葉の語源なんですね。
汚れないようにスーツよりシャツを長く仕立てた
洗えるシャツに対して、洗えない(洗わない)スーツ。
だから袖や首の汚れやすい、肌に付く箇所というのはシャツを出した、と仕立屋やメンズファッションに携わっている方はよく言います。
確かに、こうすることで大切なウールのスーツ(当時は燕尾服など)を汚れから守ったとも考えられます。
つまり、シャツをスーツの袖から1センチ出すことはファッションでも何でもなく、汚れないようにする現実的な術だったということですね。
なるほど、男の服は、全て論理で成り立っているのです。
シャツの袖は・・・
ところが、これには別の意見があります。
洋服、ファッションにおける私の先生である血脇和則先生によれば、
スーツの袖からシャツを出す、という表現自体が違っているのでは?
シャツに合わせて、スーツを引っ込める、という表現の方が適切では?とおっしゃいます。
そもそもこの、汚れ云々という考えは割と近代の服装の考えなんですよね。
服飾史を辿っていきますと、だいたいシャツは長い。
上着などよりも、シャツは長いのです。
シャツは、本来長いものでしょう。欧米ではシャツは長いのだから、出ているのは当然!という考えだとおっしゃっていました。
例えばこれはナポレオンの戴冠式の様子ですが、袖口からフリルが出ているのがわかります。
この時代はスーツなどが登場するもっとずっと前ですが、ここから辿っていくと汚れを守る、ということではなくて、
本来はシャツが長いもの!というのもしっくりくるわけです。
シャツは下着
ところで、昔も今も、英国ではシャツは下着(アンダーウエア)という認識だと思います。
今でも、ロンドンの一流レストランで上着を脱ごうとすると、ボーイに止められるのはそのためなのでしょう。
とにかく下着を人前で見せない。
見せないためにいろいろな手をつくしたのです。
まず、ベストでできるだけ隠す。
それでも胸から見える部分は、別の生地を貼りました。
これがタキシードを着る時のシャツについている、シャツのプリーツの正体です。
余談ですが、この時代は貴族はベスト姿では歩きませんでした。
近年だと、ベストだけで歩くこともありますよね?
これがなぜか?については別の記事で解説したいと思います。
見せても良い2つの箇所
さて、この時代、下着の中でも衿(カラー)と袖(カフス)だけは見せても良かったと言われます。
これも、そもそも見せるも何も、シャツは長いものだから出ていて当然!という考えだったのかもしれません。
または洗濯の事情もあって、汚れないようにという実用面から、シャツの袖はスーツのジャケットから少し出す、という風になっているのかもしれません。
スーツはできるだけ汚したくない
しかし、最近ではTシャツにスーツやジャケットを合わせている姿を、カジュアルなスタイルで見かけることがありますね。
実践したことがある方はわかると思うのですが、ジャケットが首、手先に直接触れるから、黄ばんでしまったという経験はないでしょうか?
大切なスーツやジャケットはできるだけ汚したくはないもの。
良い仕立てのスーツは、何年も着られるし、着込んでいくと味が出る。シャツがスーツの袖から出るようにしておきたいものです。
そういう意味では、長いシャツに、それより短いスーツ・ジャケットの袖の方が私としては嬉しいなと思いました。
まとめ
スーツのジャケットの袖からシャツが少し出る。
これはファッション性やルールというよりも、洗わないウールのスーツ(燕尾服・ラウンジコートなど)を守るためのアイデアだったとも言われます。
首も同じ理由から、スーツからシャツが出ているとも。
ただし、もっと以前の時代から、そもそもシャツの袖というものは長かったのです。
例えばダッフルコートなども、本来は、寒いからかなり袖が長い仕様でした、防寒です。
こんな風にスーツやシャツのデザインやルールと説明されていることには全て理由があるわけです。
スーツには長い歴史があり、文化を纏っているとも考えられますよね。
こうやって知って着てみると、もっと面白いですし、もっと服を大切にしたくなりませんか?
さて、明日は何着よう?
ライター:松 甫 詳しいプロフィールはこちら>>
表参道の看板のないオーダーサロン 株式会社ボットーネ CEO。
自身もヘッド・スーツコンシェルジュとしてフィッティングやコーディネートを実施。
クライアントは上場企業経営者、政治家、プロスポーツ選手の方をはじめ、述べ2,000人以上。
2018年6月10日
スーツの着こなし術 | ジェントルマンの知識
タグ:スーツ, ルール
おすすめ記事
スーツの流行2018 オーダースーツのゆったりとした着こなしにはワンタック?ツータック?まず、このスーツの全体的なシルエットはこんな感じ。 スーツスタイルは、何年もタイトな…
【衝撃】なぜ結婚式の服装で黒スーツを着てはいけないのかこの記事の目次 実は黒いスーツは・・・ガラパゴス・スーツ ドレスコードとタキシード …
【完全解説】チェスターフィールドコート!洒落者の伯爵が着たコートの歴史オーダーサロン ボットーネがお届けするビジネススーツ&フォーマル通信。 本日はコート…
1分で魅力的になる似合うメガネの法則メガネは顔の印象コントロールの武器 メガネは、顔の中に入ってくるアクセサリー。 そし…
3分でわかる!《男性編》恥を欠かないパーティースーツ、小物、服装で押さえておきたいポイント友人から、質問があった。 カジュアル・ファッションは好きだけれど、フォーマルの場の服…
【残念!】TOKIO 謝罪会見の服装はなぜ黒 喪服スーツなのか?城島茂氏、国分太一氏、松岡昌宏氏、長瀬智也氏、全員黒!さて、細かな経緯や今後どうなる?という点はいろいろな意見があるところだと思うのだが、…
《最新版》彼氏(旦那)に絶対贈ってはいけないプレゼント 本当のスーツの着こなしとは?オーダーサロン ボットーネがお届けするビジネススーツ&フォーマル通信。 基礎より、何…
サロンに来る紳士たちオーダーサロン ボットーネがお届けするビジネススーツ&タキシード通信。 ストールの季…
徹底比較!イタリア生地とイギリス生地の違い英国生地とイタリア生地は何が違うか? スーツやジャケットの素材は、色々な国で織られ…
スーツ 夏用 冬用の見分け方!種類と選び方、着こなしの違いは? 衣替えはいつ?まずは何月が春物・秋物スーツ? 土地柄にもよります、例えば東京で…
関連カテゴリーの人気記事 週間ランキング
-
1
背広の語源(由来)はサビルロウではなかった!スーツとフロックコートやモーニングを見ると・・・
-
2
葬式の服装 男性のスーツは黒ではなかった?喪服のマナーと心(男性編)
-
3
ネクタイの元 クラバットの進化
-
4
なぜスーツの袖からシャツが出ていないといけないのか?雑誌が教えてくれない理由に迫る
-
5
英国紳士のスーツの着こなしにベストは必須なのか?イギリスから来たお二人に直撃
-
6
【ブーツNG】男性のフレンチのマナーとエスコート マナー講師 高田さんに学ぶ
-
7
スーツに合わせる靴!合わせてはいけない靴!茶靴は?ブーツは?まとめ
-
8
お受験スーツや説明会、父親はどんな服装?幼稚園、小学校の子供を持つ仕立て屋の回答
-
9
【解決!】ストライプのネクタイの向き 右下がりと右上がりの2種類の本当の意味