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戦後日本メンズファッションの軌跡を辿る『スリー ウェルドレッサー』

皆さんこんにちは、松はじめです。

今回は非常に特別な取材をさせていただきました。『スリー ウェルドレッサー』という書籍について、プロデューサーの河合貴彦さん、そしてライターの倉野路凡さんに直接お話を伺うことができたのです。場所は河合さんがプロデュースされたブランドの代官山店に併設されたカフェ。「ブルックリンよりもブルックリンらしい」と評されるこの空間で、日本のメンズファッション史を彩る貴重なお話を聞かせていただきました。

この記事の目次

10歳刻みで紡がれる、戦後ファッション史の断面

『スリー ウェルドレッサー』は、白井俊夫さん、鈴木晴生さん、鴨下泰斗さんという三人の「ファッション界の神様」とも言える方々を紹介した書籍です。河合さんによると、この本の企画にはある奇跡的な偶然があったといいます。

「企画した段階では70代、60代、50代と、ちょうど年齢が10歳ずつ綺麗に分かれていたんです」と河合さん。この三人の生きてきた軌跡を追うことが、戦後の日本メンズファッション史の一断面を捉えることになるのではないか。そんな発想から生まれた企画だったそうです。

実はこの本の前には、『ジャパニーズ・ダンディ』という写真集がありました。その続編として『ジャパニーズ・ダンディ モノクローム』を制作した際、この三人のことをもっと深く掘り下げた本を作りたいと思ったのが始まりだったといいます。

アイビーとの関わり方で見える、それぞれの立ち位置

戦後の日本における最大のファッションムーブメントと言えば、やはりアイビーです。日本式のアイビーは、膨大な数の人々を魅了してきました。今回の三人は、そのアイビーとの関わり方がそれぞれ実に興味深いのです。

白井さんは年齢的にアイビーの影響をあまり受けなかった世代。しかしアメリカ文化を愛し、その供給側に身を置き続けました。鈴木さんはアイビーの真っ只中にいた世代。そして鴨下さんは、供給された服を着て服好きになった世代。三人三様の立ち位置から、日本のアメリカントラッドを語る。それがこの本の大きな魅力となっています。

10回に及ぶ取材が明かす、半生という物語

倉野さんは各人につき10回ほどの取材を重ねたといいます。「ファッション界の神様のような人たちですから、それは緊張しましたよ」と正直に語る倉野さん。しかし、その取材は非常に楽しい時間だったそうです。

「出生からファッションに出会うまで、青春時代をほぼ時系列で取材していくんです。その人の半生、ほぼ人生をずっと聞いているわけですよね。不思議な体験でした」

特に白井さんの取材では、戦後まもなくから洋服に出会った当時の風景を、自分で予習復習しながら録音を原稿に起こしていく作業を繰り返したといいます。知識が深くなるにつれて、次に会うときには前回わからなかったことを質問し、それを反復していく。そんな濃密な取材プロセスがあったのです。

通常の雑誌取材では、どうしても表面的な衣服の話が中心になりがちです。しかし今回は、そこに至るまでにどういう人生を歩んできたのか。その部分を丁寧に掘り下げることで、三人のことをより深く知ってもらえる形にしたかったと河合さんは語ります。

トラディショナルでありながら、旧態依然としていない生き方

三人に共通しているのは、トラディショナルがベースにあるということ。しかし、それは旧態依然としたトラディショナルではありません。時代とともにアップデートされた、生き生きとした「ウェルドレッサー」としての在り方なのです。

「感覚的なものが皆さん優れていますね。絵も上手に描かれるし、白井さんは色彩感覚がすごくある。鈴木さんは手先が器用で、子供の頃からいろいろなものを作られている。鴨下さんは美術大学に行かれて、当時描かれた絵なども残っています」と河合さん。

クリエイティブな感覚を子供の頃からキープし続けていること。それが今も憧れの存在であり続ける理由なのかもしれません。鉄道模型や車のコレクションなど、本に出ているのはほんの一部。それぞれの趣味の世界は想像以上に奥深いものがあるそうです。

幼少期から垣間見える、未来の生き方

倉野さんが取材を通じて感じたのは、三人それぞれの若い頃から将来の生き方がチラチラと垣間見えるということでした。

鈴木さんの場合、幼少期から模型作りに熱中していたことが、後にデザイナーとして自ら洋服を作れる力につながっています。専門学校で学んだわけでもないのに、絵が描ける。探究心がある。アメリカに行って現地の状況を見て、それをコピー以上のものとして自分でデザインする。その能力はずば抜けていたといいます。

これは鴨下さんにも言えることで、クラシコイタリアをいち早く取り入れたのも、その柔軟性と行動力、そしてスピード感があったからこそ。それらは幼少期から見て取れる特質だったのです。

「好き嫌いがはっきりしている。自分の中で客観視して、自分のコーディネートをしていく力が三人にはある」と倉野さん。アパレル業界にいる人がみんなおしゃれとは限りません。しかしこの三人は、アパレル業界においてその力をずっと発揮し続けてきた。それは驚嘆に値する存在だと言います。

おしゃれのヒントが散りばめられた一冊

最後に、どんな方にこの本を届けたいかという質問に、河合さんはこう答えてくれました。

「今はカジュアル化が進んでいますが、テーラードスタイルの楽しさを伝えたい。これはモテるための指南書ではないんです。ただ、この三人が歩んできた道を読んでもらうことで、読み終わったときにおしゃれなヒントが散りばめられていることに気づくはずです」

年齢は関係ない。ファッションのエッセンスだけでなく、ライフスタイルのヒントになる一冊。それが『スリー ウェルドレッサー』なのです。

おわりに

取材を終えて改めて感じたのは、この本が単なる写真集ではなく、読み物としても非常に価値のある一冊だということです。三人の生き方、美意識、そしてファッションへの情熱。それらが時代を超えて今も輝き続けている理由が、丁寧な取材によって浮き彫りになっています。

10年刻みで生まれた三人。それはまるで、この本のために生まれてきたかのような奇跡的な配置です。戦後日本のメンズファッション史を知る上でも、自分自身のスタイルを見つめ直す上でも、多くの示唆を与えてくれる貴重な一冊だと感じました。

河合さん、倉野さん、貴重なお話をありがとうございました。

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松 甫ライター:松 甫 詳しいプロフィールはこちら>> Twitter Facebook 表参道の看板のないオーダーサロン 株式会社ボットーネ CEO。
自身もヘッド・スーツコンシェルジュとしてフィッティングやコーディネートを実施。
クライアントは上場企業経営者、政治家、プロスポーツ選手の方をはじめ、述べ2,000人以上。

2025年11月29日
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